【連載第9回】但野和博のコンサルコラムサポート実録記

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新シリーズスタート! スアパア社編(前編)「ご無沙汰しております」

「いや~、ご無沙汰しております」。
携帯の電話口から届くその声は確かに半年くらいぶりである。
「こちらこそご無沙汰しております。今はタイでしょうか?」
伊藤社長は挨拶もそこそこに切り出した。
「以前頼んでいた会計事務所を辞めて、うちに入社した日本語が話せるタイ人スタッフがいたでしょう」。
確か、最後に会った半年ぐらい前の時に、それまで丸々委託していた会計事務所に依頼することを止めて、日本語が話せる経理スタッフで内製化すると話していたことを思い出した。英語ですらままならない経理スタッフが多いタイの中で、日本語が話せるとなるとかなり希少なので、すぐに思い出した。
「彼が家庭の事情で退職することになり、待ったなしの状態なのです。決算監査も対応してもらっているけれど、苦慮する事情もあるもので、色々と相談に乗ってもらえませんか?」
伊藤社長とはタイで開業した頃くらいからの付き合いだが、これまで仕事でのお付き合いはなく、相談を受けたタイミングで大抵は解決に向かっていたことが多かった。
今回も特段構えることもなく、軽い気持ちで臨んだところだったので、意外な展開に心の準備ができていなかった。
「税務署から根拠のない金額を提示され、これだけ納付しろと言われており、会計監査人もそこがハッキリするまでは決算を締められないでいます。本社からも連結決算の関係で数字を急かされていますが、こんな状況なので通常の月次までとても手が廻りません」。
そこまで聞いて、心の準備もそこそこにすぐに臨時対応モードに切り替わった。
スアパア社のビジネスモデル上、致し方ないのだが、聞く限りは無償支給を受けたものに加工して納品する際のバリューに対して、当局側がもっと価値あるだろうと考えたことが背景にあると推察される内容だった。(※1)
今回の場合に限らないが、タイ人経理対応者もタイ現地の監査法人も税務署の指摘というか納付依頼については、放置しておくと丸呑みしそうな勢いであった。伊藤社長には税務署に監査法人の協力も得ながら、内容説明して進めてもらうよう進言させてもらった。
ところが相談はこれだけではなかった。いやここからがむしろ本題だったのである。

※クライアント様の匿名性を保つために、社名・人名等をはじめ、事実から離れすぎない程度の内容の変更等、脚色部分があります。

(※1)
スアパア社はBOI企業だが、免税恩典はなく、事業利益があれば当然課税対象となる。BOI事業では免税恩典のあるものとないものがあり、ないものに対しては法人で稼いだ課税所得に通常の法人税が課されるため、税務署から見れば一般企業と同様の取扱いである。そして、今回のように税務当局よりいわれのないような事を言われるケースもたまにある。
特に毎年のように赤字決算が続くと、タイ国から見ればわざわざ外国から来てもらっているにも関わらず、貢献していないという観点からも目をつけられやすい。
そのような時、今回のように本来あるべき売上はこの位のはずで課税所得もこのくらいになるから、赤字でも修正して納付すべきというという恐ろしい論法で責めてくる場合がある。もっとも内容として適正に説明できるものであれば抗弁はできるので、丁寧に説明する姿勢は必要だ。
なお、税務とはあまり関係ないがBOI企業として免税恩典のある外資法人(日本資本が過半以上など)になっている場合でも、タイ内国法人(タイ資本が過半以上)でなければ参入できない、いわゆるネガティブリストにあたる事業は外国人事業規制法の事業対象の制限を受けるので注意が必要。
BOI企業で認可を受けているから大丈夫ということで、お客さんから依頼された新しい内容の仕事を通常事業の延長で受けることもあると思うが、知らずに外資法人のままでは規制されていることまで受けてしまうこともある。自社の事業対象範囲をよく知っておく必要がある。

 

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Accounting Porter Co., Ltd.
代表者 : 但野和博
所在地 : 24 Prime Building, 12th Fl., Room No.A, Sukhumvit 21 Road (Asoke),
Klongtoey-Nua, Wattana, Bangkok 10110
電話番号 : 02-661-7697
事業内容 : 記帳代行、経理コンサル、進出支援等、
顧客企業の事業の発展に寄与するサービス業
提携先 : 愛宕山総合会計事務所 /
日本 (代表 : 日本国公認会計士相川聡志)
E-mail : kazuhiro.tadan@aporter.co.th
http://aporter.co.th/

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但野和博
2012年5月タイ・バンコクにて、Accounting Porter Co., Ltd.を設立。日系企業の進出サポート及び経理を中心としたバックオフィスサポートを提供するサービス業として、同社を運営中。
日本での上場事業会社2社通算6年のCFO経験を活かし、日本本社部門との直接の対応を含み、現場では管理部門の立て直しを含めた相談にも対応している。本コラムでは、タイの経理現場で起きていることを中心に具体的なサポート実例を交えて執筆中。

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