【連載第11回】但野和博のコンサルコラム サポート実録記“タイの経理現場より”

tadano

ダラート社編(1)「コンサルタントはつらいよ!?」

「今はそんな話はしたくない。まずは株式譲渡の道筋がきちんと見えてからだ!」
タイ人株主のジャイディーさんは、銀戸専務が開口一番に切り出した契約書の話を遮り、いきなりの対決姿勢からその面談は始まった。
「これはしんどい現場を受けてしまったかもしれないな…」。
今回は以前から知己を得ていた日本側のコンサルタント本木さんからの依頼だ。既にタイに進出している彼のクライアント会社の件で、タイ側株主との面談に通訳同席の上、どのような状況でどんな結果になったかを客観的に報告してほしいという特殊なものだった。
タイ側株主とは揉めそうな気配があるようだという、本木さんの含みおきつきだった。いや、気配どころか事前に概要を聞く限り、既に揉めているであろうことは想像に難くない。
この日はとにかく、対戦相手のことをろくに知らずにアウェーでリングに立たされゴングを鳴らされて、いつの間にか打ち合いが始まっていた感満載だった。
「今回の契約のことですが、日本本社ではまずはこれまでの経緯を踏まえて1点づつ確認させていただき、そのうえでずっと保留になっている本契約を締結させてもらえれば…」。
日本本社からこのためにタイ入りし、交渉の窓口となっていた銀戸専務のいかにも日本的な順序を踏まえた最初の打診はのっけから拒絶された。とにかく最低限のミッションとして、本社の意向を正しく伝えようということは確かに重要であるものの、長らく今の状況で改善を待たされていたジャイディーさんからすれば何を悠長なことを言っているのだと映ったのだろう。(※1)
銀戸専務のフォローを求める視線が、早くもこちらに注がれる。

こちらで何か言おうにもジャイディーさんのほうは既に興奮気味にまくし立て、取り付く島がない。この状況の中で当事者間の話に入るのはサポートの域を当初想定よりも超えていた…。(※2)

(次回に続く)
※クライアント様の匿名性を保つために社名・人名等をはじめ、事実から離れすぎない程度の内容の変更等、脚色部分があります。

(※1)
ビジネスの場では既に言い古されていることだが、日本人が海外企業など自国外の相手と
商談する時は結論を最初に話さず過程から説明に入ることが多いため、状況にもよるもの
の相手にとってはまどろっこしいことが多い。タイにおいて日本のビジネス風土と似通っていると思われる点は、会議時間の長さかもしれない。
今は日本でも無駄な会議などは極力避けて生産性を上げようという風潮だが、タイでも合
意形成の場としての会議が多いように感じる。但し、責任の所在を明らかにして進めるというより責任を分散して時間を費やすという傾向と、各論好きでなかなか話がまとまらず各人が自分の好きなことを主張して満足する場にもなりがちで、そのため会議時間が長くなる傾向がある。2時間くらいは普通にかかることも多い。
(※2)
とは言え、第3者の中立的な立場として活用できるコンサルタントは様々な場面で有用である。どちらの立場から依頼されたかにも拠るものの、場合によってはクライアント社内の抵抗勢力に反論するためであったり、稟議を通すための意見収集という役割であったりもするが、その基本姿勢としてはクライアントオリエンテッドではあるがあくまでも客観的な目線での提案である。
今回の場合は当事者間の状況は厳しいものの、通常のコンサルより一歩引いた通訳、議事
録作成及び報告対応であると同時に、議論が偏らないように軌道修正をかけるファシリテーター的な役割も果たすことができるのはコンサルタント活用事例の1つだと思う。

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Accounting Porter Co., Ltd.
代表者 : 但野和博
所在地 : 24 Prime Building, 12th Fl., Room No.A, Sukhumvit 21 Road (Asoke),
Klongtoey-Nua, Wattana, Bangkok 10110
電話番号 : 02-661-7697
事業内容 : 記帳代行、経理コンサル、進出支援等、
顧客企業の事業の発展に寄与するサービス業
提携先 : 愛宕山総合会計事務所 /
日本 (代表 : 日本国公認会計士相川聡志)
E-mail : kazuhiro.tadan@aporter.co.th
http://aporter.co.th/

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但野和博
2012年5月タイ・バンコクにて、Accounting Porter Co., Ltd.を設立。日系企業の進出サポート及び経理を中心としたバックオフィスサポートを提供するサービス業として、同社を運営中。
日本での上場事業会社2社通算6年のCFO経験を活かし、日本本社部門との直接の対応を含み、現場では管理部門の立て直しを含めた相談にも対応している。本コラムでは、タイの経理現場で起きていることを中心に具体的なサポート実例を交えて執筆中。

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