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第21回 労働紛争解決法第二次改正法

堤 雄史(つつみ ゆうじ)
TNY国際法律事務所共同代表弁護士

東京大学法科大学院卒。2012年よりミャンマーに駐在し、駐在期間が最も長い弁護士である。SAGA国際法律事務所(www.sagaasialaw.com)代表であり、2016年2月よりタイにTNY国際法律事務所(www.tny-legal.com)を設立した。タイ法及びミャンマー法関連の法律業務(契約書の作成、労務、紛争解決、M&A等)を取り扱っている。

問い合わせ先:yujit@tny-legal.com

はじめに

 2019年6月3日、労働紛争解決法第二次改正法(以下、「改正法」という)が成立した。同法は労働紛争の解決方法や職場調整委員会などについて規定した重要な法律であり、労働者の定義や職場調整委員会の構成などの重要な点が改正されたため、本稿において解説を行う。

定義の変更

 「労働者」「使用者」「ストライキ」「権利に関する紛争」などの定義については以下のとおりに変更された。

 特に労働者について、労働者とは、自身の身体的及び知的能力を用いて作業をし、報酬を受け取る者をいう。さらに、仮採用者及び労働者、労働争議中に雇用関係が終了又は解雇された者も含む。ただし、政府役人、軍人、ミャンマー警察官及び国軍の統制下にある武装組織に所属する者は含まれないと規定された。この点、従来、労働者の定義においては「日雇労働者、短期労働者、農業労働者、家事労働者、政府職員、訓練生を含む経済活動又は生活のために労働を行う者」とされていたが、本改正により、更に幅広い者が対象に含まれることとなった。

定款の言語

 定款の言語については、ミャンマー語の作成は必須であり、英語は作成することができる旨規定されている。したがって、多くの日系企業は、英語で作成した上で、ミャンマー語への翻訳を行う。翻訳の誤りがある場合、原則としてミャンマー語が優先することから、慎重に翻訳を行う必要がある。

期限

 労働者、労働組織又は使用者が、職場調整委員会に対し、苦情を申立てた場合、職場調整委員会は申立を受領した日から公休日を除く5日以内に解決しなければならないとされていた。改正法により、これが7日以内に解決しなければならないと改正された。

職場調整委員会の委員

 30名以上の労働者を雇用する使用者は、職場調整委員会を設置しなければならない。職場調整委員会の委員の人数は、労働組織が存在するか否かによって、異なっている。そして、改正法によって、労働組織が存在する企業も存在しない企業も、委員の数が以下のとおりに増員された。

1.労働組織がある場合

 労働組織が設置されている場合には、各組織から2名の代表及びこれと同数の使用者代表から構成されなければならないとされていた。しかし、改正法では、各組織から3名の代表者及びこれと同数の使用者代表から委員を選出する必要がある。

2.労働組織がない場合

 従来、労働組織が設置されていない場合には、労働者が選挙により選出した労働者代表2名及び使用者代表2名で構成されなければならないとされていた。この点、改正法によって、労働者が選出した労働者代表3名及び使用者代表3名を選出する必要があると変更された。

3.労働者が30名未満の企業

 労働者が、30名未満であるために職場調整委員会が設置されていない場合、従前どおり使用者が労働者の苦情について対応しなければならない点はそのままである。しかし、労働者が、使用者に対し、苦情を申し立てた場合、従前、使用者は、公休日を除いて5日以内に当該紛争を解決しなければならないとされていた。この点、改正法により、使用者は7日以内に解決しなければならないと改正された。

まとめ

 上記以外の改正点としては、改正法37条以下において罰金額が高額化され、より罰則が強化された。

 以上のとおり、改正法は、委員の数や期限などの改正が多く、制度の根本を変更するものではない。しかし、改正法が制定されたということは、今後、労働者が30名以上いる企業に対し、職場調整委員会を設置しているか否かの調査が入る可能性も否定できない。したがって、この機会に今一度、社内での職場調整委員会の設置状況や稼働状況を確認するのが望ましいと解される。

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