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第31回 クーデターの合憲性

はじめに

2月1日未明にアウンサンスーチー国家顧問兼外相、ウィンミン大統領及び与党NLD(National League of Democracy)幹部が拘束された(以下「本件」)。

本件に反対するため、同5日より本日現在(4月4日)までデモが続いているが、国軍による弾圧が日に日に残虐性を増している。携帯電話によるインターネット使用や特定の時間の全てのネット回線の遮断等が行われており、現地からの情報を発信することが難しい状況が続いている。

国軍側は本件は憲法に沿った行動である旨を主張していることから、憲法との整合性について解説する。

緊急事態宣言発令者

2月1日に大統領代理に就いたミンスエ第1副大統領は、昨年11月に実施された総選挙における有権者リストに多数の不備があり、不正で強制的な手段で国家主権が脅かされたという理由で緊急事態宣言を発令した。国軍は憲法に基づく旨を主張している。

憲法417条において、「大統領は、国家主権を暴動、テロ等の非合法かつ強制的手段を用い奪取しようとする企てが存在する場合、または、連邦・国民の分裂及び国家主権の喪失を引き起こす緊急事態が発生した場合若しくは発生するであろうと判断する十分な理由がある場合、国防・治安評議会と協議の上、大統領令を発出し、国家緊急事態を宣言することができる」と規定されている。

しかし、当該規定によれば、緊急事態宣言は大統領が発出するものである。本件では大統領代理が発出しており、大統領自身は発出していない。

代理に関しては憲法73条(1)で、「大統領が職務を継続できなくなった場合」等において、「2名の副大統領のうち、大統領選挙時に2番目に票の多かった者が大統領代行として任務を遂行」する旨規定されている。

本件では、国軍が大統領を拘束するという実力行使によって職務を継続できない状態にしており、それにもかかわらず国軍は憲法に基づいて行動していると主張するのは無理があると思われる。さらに、日本やアメリカなどは本件をクーデターと認定しており、他国からも非合法的手段を用いた政権奪取と解されている。

緊急事態宣言に伴う権限移譲

大統領の権限移譲については次のように規定されている。

国軍総司令官が国内の速やかな原状回復に向けた必要な措置を取れるよう、立法・行政・司法の各権を国軍総司令官に移譲する旨宣言しなければならない、その宣言がなされた日をもって、全ての議会は立法機能を停止し、議会は自動的に解散したものとみなされる

憲法に基づき議会の承認を得て任命された組織及び自治地区・地域の指導組織に所属する全ての関係者は、大統領及び副大統領を除いて、国権が国軍総司令官に移譲された日をもって、職務を停止されたものとみなされる」(憲法418条)。

当該規定に基づき、ミンアウンフライン国軍総司令官に立法・行政・司法の全権移譲が2月1日に発表された。

その上で、同1日夜、国軍総司令官は外相、国防相など主要な11閣僚を任命し、その後も順次追加任命を行っている。主にテインセイン政権時代に閣僚や省幹部を務めたメンバーである。副大臣24名も任命され、内務・国防・国境省を除く副大臣は全員解任された。また、2日に国軍総司令官を議長とする行政評議会を設置した。

これらの任命及び設置は憲法419条に基づき、「国権を移譲された国軍総司令官は、立法・行政・司法の各権を行使する権限を有する。国軍総司令官は、自ら立法権を行使するか、立法権を行使するための自らが一員である組織を結成することができる。また、行政権及び司法権に関しては、適切な組織又は人物に移譲することができる」と規定されている。

今後の懸念

憲法420条において、「国軍総司令官は、国家緊急事態が宣言されている間、必要に応じて国民の基本的権利に関する法律を制限又は停止することができる」と規定されており、国民の基本的権利を制約される恐れがある。

事実、2月13日に令状なしで逮捕できるような法改正や不服従運動参加者を処罰するための刑法改正を行った。

憲法432条では、「国家緊急事態宣言中、国軍関連組織がとった公式な措置は合法的なものでありこれらの措置に対してはいかなる法的手段もとってはならない」と規定されている。

今後、国軍関連組織が何らかの措置を発表した場合には、当該措置は合法的なものと主張してくることに留意する必要がある。

寄稿者プロフィール
  • 堤 雄史 プロフィール写真
  • TNY国際法律事務所共同代表弁護士
    堤 雄史(つつみ ゆうじ)

    東京大学法科大学院卒。2012年よりミャンマーに駐在し、駐在期間が最も長い弁護士である。TNY Legal (Myanmar) Co., Ltd.代表であり、グループ事務所としてタイ(TNY Legal Co., Ltd.)、マレーシア(TNY Consulting (Malaysia)SDN.BHD.)、イスラエル(TNY Consulting (Israel) Co., Ltd.)、日本(弁護士法人プログレ・TNY国際法律事務所)、メキシコ(TNY LEGAL MEXICO CO LTD)が存在する。タイ法、ミャンマー法、マレーシア法、日本法、メキシコ法及びイスラエル法関連の法律業務 (契約書の作成、労務、紛争解決、M&A等)を取り扱っている。

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