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第32回 二重政府状態において有効な法令とは

反軍政組織NUGの概要

クーデター前まで政権を担っていた国民民主連盟(NLD)議員を中心として、2021年2月5日に15名で発足した組織がCRPH(Committee Representing Pyidaungsu Hluttaw、連邦議会代表委員会)である。

ミャンマー国民から軍政に対応する組織として支持を集めているものの、NLD以外の政党に所属する議員や拘束されている議員が参加できていなかった。その後、CRPHにより、21年4月16日に少数民族政党と協力し、NUG(National Unity Government of Myanmar)が発足した。

これに対して、国軍による国家行政評議会はCRPH及びNUGを違法な組織と認定し、反逆罪に該当すると主張している。

クーデター後に公布された法令の有効性

現在、国軍とCRPH(以下、NUGも含む概念として用いる)による事実上の二重政府状態が生じている。

法的観点から見ると、国軍はクーデターという違法な手段により政権を奪取しているため正統性が認められず、他方、CRPH側も一部のNLD所属議員が集まって正統性を主張している形であり、こちらも正統性は認められないと解される。

そのため、どちらの側から出された法令についても法令を公布する権限を有する組織から出されたものではないと考えれば、クーデター以前に成立していた法令のみが現在も有効と解することができる。

他方、事実上の観点からは国軍は武力行使を伴う取り締まりを行っており、国軍から出された法令に違反する場合には強制力を行使した拘束が行われるリスクが存在する。

また、CRPHについてはそのような強制力を行使する形での取り締まりを行うことが現時点では難しいものの、ミャンマー国民の多くはCRPH側を支持しており、CRPHの法令に違反した場合にはミャンマー人従業員の心情に反する行為を理由とする従業員の離反が生じるリスクが存在する。

現在のミャンマーにおいては様々な噂が流されている状況であり、例えば従業員のデモ参加を禁止している企業のリストが出回ったりしている。

リストの信憑性は低いものの、真実でなければ即座に反論できるが、真実である場合には反論が難しく、企業の評判等を損なうリスクが存在する。現に、国軍系企業の商品やサービス等については不買運動が展開されており、その対象となる可能性も存在する。

これらの事情を考慮すると、いずれの側の法令にも法的正当性がないとしても、実務上は両方の法令に従うことが安全と解される。

また、今後の展開としては、どちらの側が最終的に国際社会から正式な政府として認定されるかによって、遡及的に認定された政府側のこれまでの法令を正当化した取扱いがなされる可能性があると解されるためである。

もっとも、納税や電気代の支払いのように正面から矛盾するような内容の法令も出されている。このような場合、企業としてどのように対応すべきかの判断は難しい状況である。

当該対応を行わない場合の法的リスク(罰則)を正確に理解した上で判断する必要がある。

また、どのような判断を行うとしても、できる限りミャンマー人従業員の意見も聞いた上で丁寧に説明し、離職や反発を少なくするための努力もあわせて行う必要があると考える。

寄稿者プロフィール
  • 堤 雄史 プロフィール写真
  • TNY国際法律事務所共同代表弁護士
    堤 雄史(つつみ ゆうじ)

    東京大学法科大学院卒。2012年よりミャンマーに駐在し、駐在期間が最も長い弁護士である。TNY Legal (Myanmar) Co., Ltd.代表であり、グループ事務所としてタイ(TNY Legal Co., Ltd.)、マレーシア(TNY Consulting (Malaysia)SDN.BHD.)、イスラエル(TNY Consulting (Israel) Co., Ltd.)、日本(弁護士法人プログレ・TNY国際法律事務所)、メキシコ(TNY LEGAL MEXICO CO LTD)が存在する。タイ法、ミャンマー法、マレーシア法、日本法、メキシコ法及びイスラエル法関連の法律業務 (契約書の作成、労務、紛争解決、M&A等)を取り扱っている。

    Email:yujit@tny-legal.com
    Tel:+95(0)1-9255-201
    URL:http://tny-myanmar.com/
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