ミャンマーの最新ビジネス法務

第34回 ミャンマーにおける減給・解雇規制

はじめに

新型コロナウイルス及びクーデターの影響により、未だに日本とミャンマー間の往来は制限されている。また、近時は新型コロナウイルスの感染者及び死者数が急増しており、その抑え込みのため、7月19日より8月22日までの3週間が急遽祝日となるなど、通常の経済活動を行うことが困難な状況になっている。

そのため、従業員の減給や人員削減に関するご相談も増加している。そこで、本稿ではミャンマーにおける減給及び解雇の規制について解説する。

1.減給

減給について、一時的な懲戒としての減給と基本給を継続的に減額する減給の2種類が存在する。新型コロナウイルス及びクーデターの影響により問い合わせが増加している、後者の基本給の継続的な減給について解説する。

自宅待機や業務減少等を理由として労働者の減給を行う場合、自宅待機や業務減少は労働者の原因に基づくものではなく、これらを理由として会社が労働者の同意なく一方的に減給することはできない。基本給及びその他の手当は雇用契約書に基づく合意内容になっていることから、変更を行う場合には必ず労働者の同意を得る必要がある。

また、継続的かつ基本的な労働条件の変更となることから、雇用契約書を減給後の内容で締結し直す必要があると解される。その際、給与額以外に業務内容、労働時間、勤務場所等についても変更がある場合にはあわせて反映する必要がある。

さらに上記変更を行う場合には、事前にどのような条件を満たせば元の労働条件に戻るかなどをできる限り事前に明確に合意することが望ましい。そうしなければ、現在の状況が長期化した場合には労働者からいつまで減給されるのか予測可能性が低くなり、問題が生じる恐れがある。

他方、早期に状況が改善した場合、会社として元の労働時間で勤務させたいと考えた場合に雇用契約書との関係で問題が生じることがある。したがって、一定の条件を満たせば再度雇用契約書の見直し及び再締結を行うことができる余地のある条項を入れることが望ましい。

なお、雇用契約書を締結し直した場合には、当該雇用契約書の写しを管轄の労働事務所に提出し、担当官の承認を得る必要がある。

2.解雇

解雇手続き及び理由について、ミャンマー法上は明確な法令上の規定は解雇補償金を除き存在しない。

また、日本では整理解雇に関する要件が存在するが、ミャンマーにおいては基本的には通常の解雇と同様の手続きとなる。したがって、基本的には、解雇補償金を支払えば、日本のように厳格な解雇の合理的理由は必要とされないと解されている。

解雇補償金

会社の清算や業績悪化に伴う解雇は従業員の都合ではなく会社都合による解雇となるため、従業員に対して法定の補償を支払う必要があると解される。補償額は雇用期間に応じて異なり、2015年通知第84号に記載されている以下の額に準じる。

解雇補償金

事前の通知

解雇を行う際には1ヵ月前の通知またはそれに代わる1ヵ月分の補償が必要となることから、少なくとも1ヵ月前に労働者に対して通知する必要がある。  さらに、その後の紛争を避けるため、残された債権債務が存在しない旨等を含んだ退職に関する誓約書または合意書にサインを得ることが望ましい。

寄稿者プロフィール
  • 堤 雄史 プロフィール写真
  • TNY国際法律事務所共同代表弁護士
    堤 雄史(つつみ ゆうじ)

    東京大学法科大学院卒。2012年よりミャンマーに駐在し、駐在期間が最も長い弁護士である。TNY Legal (Myanmar) Co., Ltd.代表であり、グループ事務所としてタイ(TNY Legal Co., Ltd.)、マレーシア(TNY Consulting (Malaysia)SDN.BHD.)、イスラエル(TNY Consulting (Israel) Co., Ltd.)、日本(弁護士法人プログレ・TNY国際法律事務所)、メキシコ(TNY LEGAL MEXICO CO LTD)が存在する。タイ法、ミャンマー法、マレーシア法、日本法、メキシコ法及びイスラエル法関連の法律業務 (契約書の作成、労務、紛争解決、M&A等)を取り扱っている。

    Email:yujit@tny-legal.com
    Tel:+95(0)1-9255-201
    URL:http://tny-myanmar.com/
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