ビジネス・経済 2019.07月号

未来を創るナノテクのチカラ No.65

ドローンを使って、仮想ショッピングをもっとリアルに


ユーザーが仮想空間のハンガーを動かすと、それに応じてドローンが移動し、ユーザーに触覚を伝える

 ヘッドマウントディスプレイを装着してVRを体験すること自体はもうそれほど珍しくはなくなってきたが、視覚だけのVRでは臨場感が足りない。

 仮想空間での臨場感を増すために、昔から研究されてきたのが触覚フィードバックだ。代表的なものとしては、手袋型デバイスがある。手袋内部に振動子が多数装着されていて触覚を伝えるものなど、さまざまなデバイスが試行されている。

 最近の触覚フィードバックのトレンドとして注目されているのが、ドローンを使った方式だ。本誌でも以前、触覚フィードバックを使って、遠隔地のドローンを自分の手足のように操縦という研究を紹介したが、これは超小型ドローンを仮想的な「腕」として使うものだ。

 一方、スタンフォード大学のParastoo Abtahi博士らは、ショッピングに特化した仮想ショッピングシステムHoverHapticsを発表した。

 ヘッドマウントディスプレイとマーカー付きの手袋を装着したユーザーの動きを、外部カメラで追跡。ユーザーの手の動きに応じて、ドローンを移動させたりその場でホバリングさせたりする。デモでは、ハンガーやテクスチャを付けたドローンをユーザーがつかんで移動させる様子が紹介された。ドローンの動きを仮想空間のオブジェクトと同期させることで、ユーザーは仮想空間のオブジェクトの重さや手触りを感じながら、仮想ショッピングが楽しめるという。

 HoverHapticsはドローンを使うためにそれなりの空間を必要とするが、店内にない商品を客に試着してもらうなど、リアル店舗と仮想店舗を組み合わせた新しいショッピング体験を提供できそうだ。映画『レディ・プレイヤー1』で描かれた未来は、私たちが思っている以上に近くに来ているのかもしれない。

口パク動作を行うだけで発話内容を認識


顎の下に装着したプローブからのデータをディープラーニング技術で解析することにより、口パクを音声に変換できる。

 音声認識を使ったユーザーインターフェイスは、私たちの日常にずいぶん浸透してきた。スマホやパソコンで文字入力する時などに音声認識を使うケースは増えているし、スマートスピーカーも世界的にベストセラー商品になっている。少なくとも家の中であれば、スマートスピーカーのようなデバイスに対して話しかけることも抵抗はなくなってきているといえるだろう。

 とはいっても、スマホに話しかけているプライベートな内容を、他人に知られてもいいという人は少数派なのではないだろうか。音声認識がユーザーインターフェイスのメインストリームにならない理由として、この点が大きいように思われる。 東京大学とソニーコンピュータサイエンス研究所からなる研究チームが開発した技術「SottoVoce」(ソット・ヴォーチェ)は、音声ユーザーインターフェイスに一石を投じることになりそうだ。

 SottoVoceは、超音波エコー映像とディープラーニングを組み合わせた技術である。利用者の顎の下に超音波イメージングプローブを取り付けて口腔内の情報を取得。利用者が声帯を振動させずに発話した、発生内容を認識するようになっている。

 超音波画像からディープラーニング技術によって音響特徴ベクトルを生成。さらにこの音響特徴ベクトルを実際の音声波形に復元して、オーディオスピーカーから再生する。声を出さずに発話した内容が実際の音声として出力されるわけだ。こうして出力された音声を使い、実際の発話と同様にAmazon Echoなどのスマートスピーカーをコントロールすることにも成功した。

 実用化されれば、声帯を損傷して声を出せなくなった人にとっての福音になるのは間違いない。また、音のない「声」で自由にデバイスをコントロールできるようになれば、これまでの音声ユーザーインターフェイスの課題が解決される可能性もある。

 イヤホンを耳に付け、ファッショナブルなスマートチョーカーを首に巻くのが、数年後にはトレンドになっているかもしれない。

自動運転車を進化させる、古くて新しい「目」


ステレオカメラから得た奥行き情報付きの画像(左下)を、鳥瞰図(右)に変換して物体検出を行うことで、LiDARと同等の精度を出すことが可能になった。 by Cornell University

 次世代自動車で最も注目されているキーワードが、「自動運転車」ということに誰も異論はないだろう。Googleを始めとするIT企業や、既存の大手自動車メーカー、そしてテスラなどの新興メーカーが、新しい自動車産業の覇権を握ろうと開発にしのぎを削っている。

 自動運転車におけるキーは、「目」だ。自動車だけが通行する高速道路での自動運転は、カメラとミリ波を用いたセンサー技術でかなり実用レベルに近づいているが、難しいのは市街地の自動運転である。建物やガードレール、街灯などを元に現在位置を把握し、車体周囲にある物体との距離を数cm単位で正確に計測する必要がある。

 自動運転車を開発するほとんどのメーカーではセンサーに「LiDAR」(Laser Imaging Detection and Ranging)を採用している。LiDARは、レーザー光のパルスを周囲に照射して、対象物の距離や性質を正確に分析する。

 ただ、LiDARにも短所がある。最大の短所は、コストが高いこと。LiDARは1つあたり百万円〜数百万円のコストがかかる。また、大きな装置を屋根に搭載するため、空気抵抗も大きくなる。

 コーネル大学の研究チームが発表したのは、既存の安価なステレオカメラを用いて、LiDAR並みの精度を上げる手法だ。この手法では、フロントガラスの両側に安価なカメラを2台設置し、奥行き情報を含むイメージを取得する。

 奥行き情報を使うこと自体は以前から行われてきたが、これまでは物体検出の精度でまったくLiDARにかなわなかった。コーネル大学の研究チームはカメラからの奥行き情報付き画像を、鳥瞰図の点群に変換。これを元に物体検出させることで、従来のカメラを使った手法の3倍、ほぼLiDARと同じ精度を実現することに成功した。

 高価なセンサーが、ちょっとした発想の転換によって不要になってしまうこともありえる。自動運転車開発で、ゲームチェンジが起こることになりそうだ。

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