ビジネス・経済 2019.08月号

未来を創るナノテクのチカラ No.66

2021年、火星の空を飛ぶヘリコプター


真空チェンバー内で浮上実験を行っている「Mars Helicopter」

 2020年代にはさまざまな宇宙開発計画を各国が実施することになっているが、中でも注目されているのが火星関連ミッションだ。20年夏には火星探査ローバー「Mars 2020」が打ち上げられ、21年2月にジェゼロ・クレーターへ到着する予定で、地質評価や生命存在の痕跡、居住性の検証などを行うことになって いる。

 このMars 2020と共に打ち上げられるのが「Mars Helicopter」、文字通り 「火星の空を飛ぶヘリコプター」。重量は1・8キログラム、二重反転式ローターの軽量ドローンだ。火星の夜は、気温がマイナス90℃にまで下がるため、機体の保温機能も備えている。

 ヘリコプターということはローターを回転させて揚力を発生させるわけだが、そもそも火星にはヘリコプターが飛べるほどの大気が存在するのか、という疑問が湧くかもしれない。

 火星の大気密度は、地球のわずか1パーセント程度。地球上で同じ大気密度にしようとすれば高度3万メートル以上に上らなければならないのだ。

 そこでNASAの研究チームは、幅7・62メートルの真空チェンバーを利用。チェンバー内の空気を抜き、火星大気の主成分である二酸化炭素を注入した。また、火星上では重力も地球上の3分の2だ。これを再現するために、Mars Helicopterの上部にはモーターで動作するランヤードが取り付けられ、常に機体が上方へと引っ張られるように工夫した。

 Mars Helicopterのローターは、通常の約10倍の速度で回転し、薄い大気の中でも必要な揚力を生み出す。3月に行われたチェンバーでの実験では、5センチメートルほどの高度を数十秒間浮上した。

 火星でのミッションでは、最終的に数百メートルの高度を90秒間ほど飛行する予定だ。地球外の大気中を飛ぶ飛行体は、もちろんこれまでに存在しない。ヘリコプターによって、地上の探査機だけでは得られない地表の分析や安全な走行ルートの確保も可能になるという。

DNAに情報を記録するストレージが実用化に一歩前進


マイクロソフトとワシントン大学が開発した、デジタルデータ←→DNAの変換を自動で行う装置。

 60兆個もの人間の細胞1つ1つには核があり、その中には約31億のDNAの塩基配列が存在している。地球上に生命が誕生して以来の遺伝情報が、複製、変異を繰り返しながら我々にまで受け継がれてきた。

 アデニン(A)、グアニン(G)、シトシン (C)、チミン(T)というDNAの塩基配列を使って、デジタルデータを記録しようという試みには、欧州バイオインフォマティクス研究所やマイクロソフトなど、世界中のさまざまな研究機関や企業が取り組んでいる。

 DNAストレージの利点は、データ保存期間の長さと保存コストの低さだ。インターネット上には莫大なデータが存在し、その量も急速に増えているが、こうしたデータを低コストで長期保存しようとすれば、ハードディスクやフラッシュメモリでは無理がある。ハードディスクやフラッシュメモリでデータでの保存期間は10年以上だが、DNAストレージは1グラムで215ペタバイトのデータを何千年も保存できると言われている。

 しかし、DNAストレージはとにかくデータの読み書きが遅い。デジタルデータを塩基配列に変換しなければならないし、DNA中の特定のデータを検索するのも難しい。2018年にマイクロソフトが行った発表では、DNA配列の断片に「プライマー」というマークを付加することで、ランダムアクセスが可能になるとしていた。

 19年にワシントン大学とマイクロソフトが新たに発表したのは、人手を介さずにビット列をDNAに変換し、さらにまたビット列に戻せる、つまり読み書きを自動化する装置だ。装置は、DNAを合成するための機材やDNAシーケンサーなどから構成される。この装置はあくまで概念実証のためのもので、記録、復元されたデータはわずか5文字の「hello」という単語だ。しかし、ITの世界において、自動化が爆発的な進化が起こす例を私たちは何度も見てきた。

 数十億年にわたって生物の遺伝情報を引き継いできた仕組みが、人間の生み出したデータを後世にも伝えるために使われるようになるというのは、とても感慨深い。

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