“無言実行”で製造強国へ
▲朱炎氏
―米中貿易摩擦をどう捉えていますか。
米国の製造業が衰退し、中国の製造業が台頭してきたのは、中国の問題ではない。米国の方が製造業から金融、IT産業へシフトしたのだ。産業転換に乗り遅れた中西部の白人労働者の失業問題を中国のせいだと論点をすり替えている。
ただ、米国が台頭する中国を脅威と捉え、まだ米国が強いうちに押さえ込もうとする意図もあるだろう。
―第1段階の合意で棚上げになった、中国政府の「産業補助金問題」は今後、どうなりそうですか。
米国が問題視しているのは、国有企業の問題だ。赤字だと政府が補填し、黒字でも政府への配当の割合を低く抑え、次年度以降の研究開発費の原資を捻出できる。こうした政府の支援を広義の補助金と呼んでいる。国有企業の扱いは、社会主義の中国の政治体制に直結する難しい問題だ。簡単には妥協しないだろう。
―米国は製造強国を目指す戦略「中国製造2025」にも懸念を抱いています。
一連の貿易摩擦のやりとりの間に、中国国内では中国政府への批判の声もあった。それは中国が先端分野で世界1位などと宣伝しすぎたため、米国を目覚めさせてしまったというもの。この反省に立ち、今では中国メディアは「中国製造2025」に触れなくなった。だが、製造強国を目指す取り組みを止めたわけではない。“無言実行”していくだろう。
―米中の経済関係は中長期的にどうなっていくのでしょうか。
貿易摩擦を通じて中国が学んだことは、市場の米国依存、半導体などハイテク製品の米国依存、ドル決済依存だ。関税増加分のコストだけなら中国は十分吸収できる。だが、市場やハイテク製品などの米国依存は、中米関係が悪化すると自国経済を直撃する。今の段階で米国と全面対決するのは得策でないと中国は心得ている。米国を刺激しないよう注意しながら、着々と米国依存からの脱却を進めるだろう。
―足元、猛威を振るう新型肺炎の経済への影響をどうみますか。
1-3月期と4-6月期の国内総生産(GDP)は影響を受け、20年は通年で良くて5%ぐらいの成長率になると予想する。21年以降も、これまでのような高成長は期待できない。21年に始まる第14次5ヵ年計画では、成長率が一段と低下しても、経済・社会の安定を保てるかが課題となる。
【記者の目/日本製造業に悩ましい課題】
朱教授は、米中摩擦で経済面での米国依存を実感した中国は、依存脱却に向け内需振興とハイテク製品の国内開発を加速すると見る。中国が“自立”してくると、デカップリング(経済的分離)につながる恐れがある。日本の製造業は米中どちらとも取引が多い。サプライチェーン(供給網)に影響するだけに、生産体制のあり方をめぐって悩ましい課題がつきまとう。(大城麻木乃)
※記事提供:日刊工業新聞(2020/2/21)
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