日経アジア編集総局長と、JETRO主任調査研究員が解説!変貌するASEAN経済、AECの動きを捉えたビジネス戦略とは

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※本記事は、日経ビジネススクールアジアのプログラムとして2016年9月12日に開催された内容を元に作成したものです。

変貌するASEAN経済 ~5つの新潮流

  1. 超えられるか「中進国の罠」
  2. 人口動態から見える「次の勝者」
  3. 地域を揺さぶる米中の綱引き
  4. AECの挑戦~国境は消えるか
  5. 政治の行方は?~「開発独裁」の先に

タイが抱える問題を解決し、 日本のプレゼンスを上げる

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日本経済新聞社
井口哲也アジア編集総局長

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日本貿易振興機構(JETRO)・バンコク事務所
伊藤博敏主任調査研究員(アジア)

ASEANは6億人以上の人口を抱えており、今後も増えていく見通しです。
ここでまず注目すべきは、ASEAN域内の1人当たりGDPに大きな格差があることです。ASEAN他国とは反対に少子高齢化が進み、2050年には1,306万人の生産年齢人口が減少するタイが成長していくには、生産年齢人口が増加するカンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム(CLMV)の労働力を活用し、メコン経済圏の確立が必要不可欠になります。

タイ国内に目を向けると、開発独裁(経済発展を優先させ、他政治運動を抑えて秩序維持を図る体制)が推し進められたことにより、貧富格差の顕在化に伴う社会不安をはじめ、環境問題、政治システムの不安定化や腐敗による経済・社会の機能不全といった問題を抱えています“。中進国の罠”に陥る可能性を回避するためには、この体制下、急速な経済成長を遂げたことで生じた歪みを解決していかなければなりません。

対外関係では、近年のASEAN輸出入額ランク、どちらも2000年代半ば以降、日米に代わり1位の座を握る中国への依存度が増し続けています。また、30年にはGDPの世界シェアで米中の経済力が逆転されることも予測されており、中国の景気が悪化すれば ASEANの景気にも影響を与える恐れがあります。中国への依存度が上がることにより、中国の政治的関与が強くなることも懸念されますが、日本にとってチャンスになるのは、そこに摩擦が生まれた時だと言えます(井口氏)。

変化していくAECを活用したビジネス戦略を

2015年12月31日に発足した、ASEAN経済共同体(AEC)の進展でビジネス環境はどう変わるでしょうか。
まずAEC内の関税は2015年中にほぼ撤廃されており、後発加盟国であるCLMVの有関税品目も、原則18年1月に撤廃が予定されています。また、16年中には原産地証明書の電子フォーム導入を目指しています。これに加え自己証明制度の導入がいつ実現するかが次の焦点です。

AECが発足されて1年が経過しますが、ほかにも課題は多く残っています。経済統合深化の過程で今後、段階的に課題の解決が進められていくとともに、ビジネス環境の改善も徐々に図られていくことでしょう。

日系企業の対ASEANビジネスの動向を見ると、投資額は3年連続(13~15年)で2兆円超となり、中国向けを大きく上回りました。また、ASEANおよび周辺国市場を見据えたハブ化が進んでおり、ASEANを面で捉えた集約化、リスク分散、拠点間の相互補完などを行い、機能的なサプライチェーンが整備されつつあります。

ビジネス環境上の課題としては、国・地域によってさまざまですが、人件費の高騰、新興国のインフラ未整備などが挙げられます。入念なFS(実現可能性調査)による想定外のコストを減らすことが重要です。経済統合の進展に伴う新制度構築および規制緩和、情報インフラ整備など適切に対応、活用し、地域全体を見据えたビジネス戦略を構築していくことが競争を勝ち抜く鍵になると考えます(伊藤氏)。

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