【連載】半歩先読み、タイ自動車市場 ~タイ自動車ユーザの実態と展望~ 第2回 自動車市場に影響を及ぼす政策

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第2回 自動車市場に影響を及ぼす政策

自動車に関連する政策の目的

自動車市場に影響する様々な政策は、そもそもどのような目的で実施されているのか。大別すると「自国内の自動車産業の育成」「エネルギー安全保障の確保」「自国内の環境改善」 の3つが挙げられる《表1》。

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中でも最も重要な目的は「自国内の自動車産業の育成」である。これは、自動車産業が広範な関連産業を持つため、経済成長や雇用確保に大きく貢献するからである。
貿易自由化が進む中で、自国内に自動車産業を誘致・育成するためには、自国で製造した自動車が国際競争力を発揮できるようにする必要がある。国際競争力は、梃子とする国内 市場の規模に依存する。一方で、ASEAN諸国の国内市場は、十分な規模とは言い難い。そのため、総花的に恩典(税優遇・補助金等)を与えるのではなく、自国内の市場を無理のない形で、狙った車種のセグメントに誘導する必要がある。タイ政府は、国民の生活習慣に根差したピックアップおよび乗用ピックアップ車 ( PPV:Passenger Pickup Vehicles)に税制上の優遇装置を実施してきた。結果として、2015年にはピックアップ・PPVの国内販売台数は約37万台で、生産台数は約110万台となり、タイはピックアップ・ PPVの生産基地となった。
ここで注意が必要なのは、燃費規制や安全規制などの政策も、多かれ少なかれ「自国内の自動車産業の育成」を目的としているということである。自国内で生産した車両の輸出 先は、新興国に留まらない。各種規制のより厳しい先進国に輸出するためには、国内市場を規制に対応した車種に誘導して車両生産を伸ばし、競争力を高めていく必要がある。自動車産業集積でタイに遅れを取るマレーシア政府は、EEV( Energy Efficient Vehicle)政策で、燃費を条件として選択的に省エネルギー車の市場拡大と製造・輸出拠点化を目指 している。
ただし、自国の経済水準に見合わない規制の導入は、車両価格の上昇を招き、自国内の市場の伸びを鈍化させ、逆効果となりうる。日系企業にとっては、恩典にのみ着目して投資 をしてしまうと、市場が期待したほど拡大せず、余計なアセットを抱え込むことになってしまう可能性がある。「政策が狙い通りに機能するのか=ユーザが受け入れるのか」が重要となるのである。

ユーザニーズを確かめるべき政策と論点

NRIは、「エコカー」「ピックアップ」「E85対応車」「安全性・装備」の4項目を選び、ユーザニーズの変化と政策の効果を検証した。例えば、エコカーに関しては、タイ政府が政策誘導でエコカー市場を拡大させているが、市場の持続性があるのかが論点となる《表2》。

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バンコクおよび地方都市ウボンラーチャターニーで対面式のアンケートを行うことで、ユーザニーズを把握した。
次回は、アンケート結果を踏まえて、エコカーユーザの購買傾向について考察する。
(次回、ArayZ8月号に続く)

 

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主任コンサルタント
吉村英亮

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シニアコンサルタント
山本 肇

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《業務内容》 経営・事業戦略コンサルティング、市場・規制調査、情報システム(IT)コンサルティング、産業向けITシステム(ソフトウェアパッケージ)の販売・運用、金融・証券ソリューション
399, Interchange 21, Unit 23-04, 23F,
Sukhumvit Rd., Klongtoey Nua,
Wattana, Bangkok 10110
TEL: 02-611-2951
URL: www.nri.co.jp

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