【野村総合研究所】タイ、アセアンの自動車ビジネス新潮流を読む

【連載】半歩先読み、タイ自動車市場 ~タイ自動車ユーザの実態と展望~ 第4回 価格上昇はピックアップユーザの購買意欲に大きく影響する(前編)

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第4回 価格上昇はピックアップユーザの 購買意欲に大きく影響する(前編)

NRIは、「エコカー」「ピックアップ」「E85対応車」「安全性・装備」の4項目を選び、ユーザニーズの変化と政策の効果を検証した。具体的には、バンコクおよび地方都市ウボンラーチャターニー( 以下、ウボン)で対面式の簡易アンケートを行うことで、ユーザニーズを把握した。
本稿では「1tピックアップ」の結果について述べる。

1tピックアップ向け政策の内容と影響

タイは、世界における1tピックアップ生産・販売の中心地である。1tピックアップの世界市場は2015年時点で約250万台であり、うちタイの販売台数は約40万台で約1.5割、生産台数は約110万台で約4割を占める(※1)。
タイにおける1tピックアップ市場の拡大は、政策誘導による影響が大きい。タイ政府は、1970年代から1tピックアップの普及を狙って物品税の優遇を行ってきた。1tピックアップが選択されたのは、主に農業を営む多くのタイ人の生活と親和性が高かったからである。2015年時点では、乗用車の税率が17~35%であるのに対して、1tピックアップおよびPPVの税率は3~12%と大幅に低く設定されていた。これを受けて、日 系自動車メーカ各社は、徐々に日本からタイに1tピックアップの生産機能・開発機能を移管し、タイは世界における1tピックアップの輸出基地となった。
しかし、2016年1月にタイ政府が新物品税を導入したことで、状況は変わってきている。新物品税下では、エコカーと1tピックアップとの税率の差が大幅に縮まった(図表1)(※2)。

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エコカーに対する税率は3~5%下がる一方で(17%→12~14%)、1tピックアップに対する税率は0~4%上がったためである(3~12%→3~15%)。VATは物品税を含めた金額に対してかかるため、税率上昇の影響はより大きくなる。また、今後は安全装備の義務化や、排出ガス規制の強化も予期されるため、1tピックアップの更なる価格上昇が起こり得る。
新物品税導入や今後の各種規制への対応は、1tピックアップの価格上昇に繋がり、タイ開発・生産車の国際競争力の源泉となる国内市場の規模に悪影響を与えうる。タイに同車の生産・開発機能を集約した日本企業にとっては、タイ国内での販売規模を維持すべく、1t ピックアップに対するユーザニーズをよりよく把握していく必要がある。
(次回、ArayZ10月号に続く)

※1:米国におけるMidsizeピックアップや、乗用ピックアップ車(PPV:Pickup-based Passenger Vehicle)を含む
※2:2015年12月以前は、排気量に基づいて税率が決まっていた。2016年1月以降は、1kmあたりの二酸化炭素排出量に基づいて税率が決まっている

執筆者:野村総合研究所タイ

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シニアコンサルタント
山本 肇

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主任コンサルタント
吉村 英亮

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《業務内容》 経営・事業戦略コンサルティング、市場・規制調査、情報システム(IT)コンサルティング、産業向けITシステム(ソフトウェアパッケージ)の販売・運用、金融・証券ソリューション
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