法務・会計・税務 2019.07月号

タイ王国サイバーセキュリティ法の発効

1. 背景、経緯
 タイ政府は、2015年に国家構想「タイランド4.0」を公表して以降、様々なデジタル施策を打ち出してきましたが、19年2月に国内初となる個人情報保護法を含む6つのデジタル関連法i を成立させました。これらの法は、国王署名および官報掲載手続きを経て、同年5月28日より施行されていますが、今回はこのうち、内外の企業等から個人情報保護法と並んで注目を集めている「サイバーセキュリティ法ii 」の内容をご紹介します。

2. 概要
タイ政府が目指すデジタル国家においては、各種情報システムが国家の重要機能を担うインフラストラクチャとみなされ、システムダウンやサイバーアタックといった脅威への対応策は、国家の重要課題と位置づけられています。同法は、このような脅威に対抗するため、国家全体のサイバーセキュリティ(CS)の強化を目的とするものとされています。

 同法は4つの章(委員会・CS庁・CS・罰則)と発効に伴う移行措置を定める附則より成り、このうち主に企業に対する義務を定めているのが、第3章の「CS」です。

3. 重要情報インフラストラクチャに関する義務
 同法は、「重要な社会的機能(国民の健康、安全、セキュリティ、経済的または社会的幸福)の維持に不可欠な相互接続された情報および通信インフラであって、その破壊または崩壊により深刻な結果が生じるもの」を「重要情報インフラ(CII)」と定義し、(1)国家安全保障(2)公共サービス(3)金融サービス(4)ICTおよび情報通信(5)サプライチェーンおよび物流(6)エネルギーおよび公共施設(7)ヘルスケア(8)その他国家CS委員会(NCSC)が定めるもの、の8つの類型を定めています。これらの領域において業務を受託し、またはサービスを提供する公的または私的組織には、CSリスク評価計画の提出やNCSCが定める方針および計画に従ったSCガイドラインの策定等の義務が課されるほか、システムの設計やインフラ運営、その他CSを維持するためにNCSCが必要とみなす情報を提供し、「サイバー脅威」の発生時にNCSCに通知を行わなければならないとされています。

4. サイバー脅威発生時の強制権限
 同法は、「サイバー脅威」が発生、またはその可能性がある場合、NCSCの事務局長は、脅威の影響の評価および分析を目的として情報収集を行う権限を有するものとされ、民間団体に情報提供を要請したり、保有している文書のコピーの提出を命じたりすることができるものとされています。

 さらに、「サイバー脅威」が「深刻な」iiiものである場合、サイバー脅威に関連するコンピュータまたはシステムの所有者等の施設内に立ち入り、システムの監視、コンピュータの押収や強制アクセス等を命じることができます。これらの権限は、原則として裁判所の許可を得て行われるものとされていますが、 「危機的な」サイバー脅威を防ぐために緊急の必要がある場合は、裁判所の許可を得ずに行うことができると定められています。これらの権限に基づく要請や命令に合理的な理由なく従わない場合は、禁錮や罰金といった刑事罰の対象となります。

 「危機的な」サイバー脅威は、「国家の安全保障を脅かす可能性がある」等が該当するとされており、必ずしも明確かつ限定的な要件とされていないことから、このような条項については、国家の恣意的な運用により、個人または企業の自由が侵害されるおそれがあるなどの懸念の声が上がっていますiv。

i 電子決済機構改革法、個人情報保護法、サイバーセキュリティ法、デジタル経済社会評議会法、デジタルID法、電子決済担当官法。
ii http://www.ratchakitcha.soc.go.th/DATA/PDF/2562/A/069/T_0020.PDF
iii 同法は、サイバー脅威を「深刻でない」「深刻な」「危機的な」の3段階に区分しています。
iv Asia Internet Coalition issues statement on Thailand’s Cybersecurity Law (https://aicasia.org/wp-content/uploads/2019/03/AIC-Statement_Thailand-Cybersecurity-Law_28-Feb-2019.pdf )


小出 将夫
One Asia Lawyers タイ事務所所属。
IT法務を含む一般企業法務案件、日系企業の東南アジアへの進出支援案件、M&A、ICO等を中心に、各種法的サポートを提供している。
応用情報技術者、高度情報技術者(セキュリティスペシャリスト)の国家資格を保有。

 

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