ASEANビジネス法務 最新アップデート

インド会社法2019の総まとめ

ASEANビジネス法務 最新アップデート インド会社法2019の総まとめ

はじめに

 インドでは2013年に会社法の大改正があり、その後、小規模な改正が頻繁に実施されている。今回は、19年に施行されたインド会社法(以下「2019年改正法」という)のポイントをまとめてみたい。

会社の社会的活動への資金支出(21条)
2019年改正法において、一定の充足する会社(純資産50億ルピー、売上100億ルピー、または純利益5,000万ルピー以上の会社)は、一定の活動資金(過去3会計年度の純利益平均額の2%)を会社の社会的責任(以下「CSR」という)を果たすための活動に拠出しなければならなくなった。

 改正前にもCSR活動支出に関する規制はあったものの、支出しなかった正当事由を取締役会報告書上に記載すれば義務を免れることができた。本規定が施行された後は、実際に活動資金を拠出する必要があり、さもなければ最終的には未消費資金が政府の管理する慈善基金に移転されるという厳しいものである。従来はComply or explain (遵守もしくは説明)であったのが、Comply(遵守)のみになったのである。

 具体的にはCSR活動の未消費資金は、会計年度末から30日以内に未使用CSR口座に移し替える必要があり、それでもなお3年以内に消費されない場合は、その金額を慈善基金に移転させる必要がある。

 認められるCSR活動の詳細は会社法別表第7に記載されており、貧困撲滅、女性差別解消等は認められるものの、従業員教育目的では認められない。

重要利害人(90条4A)
 2019年改正法により、会社の運営に重要な影響力を有する者(Significant Beneficial Owner、重要利害人)が自らを会社に申告し、また会社がそれを登録する義務が生じた。10%を超える受益権(株式等)を有する者は、重要利害人とみなされるので注意が必要である。

株式の電子管理(29条1b)
 従来は公開会社のみにおいて必須とされていた株式の電子管理(Dematerialization)であったが、2019年改正法において「公開」という文言が削除され、政府が別途指定する会社(おそらく非公開会社も含む)において、株式の電子管理が義務になることが予想されている。詳細は政府の通達にかかるが、注意が必要な点である。

独立取締役(19年第5回修正規則)
 19年12月1日に施行された部分で、独立取締役(Independent Director)は、20年2月末までに政府の管理するデータバンクへの登録が義務付けられ、データバンク登録1年以内に所定の試験に合格することが必要となった。独立取締役自体は、外国人かつ非居住者でも適格性を有するが、今後は名ばかりの選任では済まない可能性があり、注意を要する。

その他
 他にも、会社法規定不遵守の場合の罰則の軽減(禁固刑の削除)、会計年度変更の承認期間の変更、取締役の欠格事由の拡大等の改正が実施されている。

志村 公義

志村 公義
One Asia Lawyers 南アジアプラクティス代表(インドの提携事務所Acumen Juris法律事務所に出向中)
2001年弁護士登録。外資系法律事務所において外資系企業への日本投資案件の法的助言を行う。その後、日系一部上場企業のアジア太平洋General Counsel、医療機器メーカーのグローバル本部(シンガポール)での法務部長等、企業内法務に約10年間従事した経験を踏まえて、ASEAN及び南アジアにおける日系企業のコンプライアンス体制構築、内部通報の導入支援、コンプライアンス監査、研修、不正対応等の対応を行う。現在はインドに常駐し、インドをはじめとしたバングラデシュ、ネパール、スリランカ、パキスタン等の南アジアの法務案件の対応を行う。

One Asia Lawyers
One Asia Lawyersは、ブルネイを除くASEAN全域及び東京にオフィスを有しており、日本企業向けにASEAN地域でのシームレスな法務アドバイザリー業務を行っております。2019年4月1日よりインドプラクティスを開始。

【Acumen Juris 法律事務所 日本デスク】
Platina Tower, MG Road, Sector 28, Gurgaon HY, India
+91 74281 39456


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