PwC タイビジネススタディ

PwC タイ税務スタディ 減資に係る税務


松下 駿太郎
Manager
2009年にあらた監査法人に入所、日本において製造業を中心に約5年間監査業務に従事。
2015年9月にPwCタイに赴任。タイ国日本企業の会計監査、内部統制監査などの監査業務のサポートだけでなく、会社設立やビジネスライセンス取得、事業再編などを税務および法務面でサポートしている。日本国公認会計士。
+66(0)2 344 1466(直通)、+66(0)98 282 1372(携帯)
matsushita.shuntaro@th.pwc.com

<質問>

タイにある会社が減資し、日本の株主に出資金を返還したいと考えています。この支払はタイで課税されますか?

一般的に資本の返還は資本取引であり、非課税とされます。しかし、歳 入法典第40条(4)(d)によると、会社に留保利益(準備金および剰余金)がある場合には、減資によって払い戻される金銭のうち、この留保利益までの金額は所得の払戻しとみなされます。すなわち、法的に資本の払戻しという形をとったとしても、税務上は留保利益から払戻しを行ったとみなされます。

また、同法第70条によると、タイ国にて事業を営んでいない外国法人が、同法第40条(4)(d)に規定される所得をタイから受け取る場合、タイにおいて納税義務を負います。したがって、外国法人が減資により受け取った金銭につき、減資会社の留保利益までの金額は、所得の払戻しとみなされ、タイにおける納税義務が発生します。もし減資が非課税とされれば、株主への金銭の支払方法として、課税対象となる配当よりも減資が選ばれることになります。これを防ぐ意味で、前述のような税務上の取扱いがなされています。
適用税率について、同法第40条(4)(d)に規定される所得(留保利益までの減資額)には15%の源泉徴収税が課され、10%が適用される同法第40条(4)(b)に規定される所得(配当)とは区別されています。

また日タイ租税条約10条によると、「配当」とは「株式その他利得の分配を受ける権利から生ずる所得(中略)であって、分配を行う法人が居住者とされる国の税法上、株式から生ずる所得と同様に取り扱われるもの」と定義されおり、減資による金銭の支払いは、配当所得として分類されます。そして、租税条約にて規定される配当所得に係る上限税率は15%であるため、留保利益までの減資額には15%の源泉徴収税が課されることになります。

《減資に係る事例1》
A社は、10百万バーツを減資する計画があります。同社には留保利益(準備金および剰余金)が50百万バーツあります。この減資により、A社は日本の株主に対し、金銭の支払いを行います。
→減資による支払額は留保利益より少ないため、日本の株主への金銭の支払いは、全額が留保利益から払戻しを行ったとみなされます。よって、歳入法典第40条(4)(d)および租税条約に基づき、10百万バーツ全額に対して15%の源泉徴収税が課されます。

《減資に係る事例2》
B社は、10百万バーツの減資を行う計画があります。同社には留保利益(準備金および剰余金)が1百万バーツあります。
→減資による払戻金のうち1百万バーツは留保利益から払戻しを行ったとみなされ、事例1と同じく15%の源泉徴収税が課されます。
他方、払戻金のうち残る9百万バーツについては出資の返還であり、配当のような利益の分配ではありませんので、課税所得とはみなされず、源泉徴収税の対象とはなりません。

外貨建取引の為替換算(原則処理)

歳入法典第65条bis(5)によると、事業年度末日において外貨建資産/負債がある場合、資産についてはタイ中央銀行が算出した銀行間取引市場の平均買相場(中央銀行公表買レート)、負債については同平均売相場(中央銀行公表売レート)を用いてバーツ換算する必要があります。この換算方法は金融機関を除く会社およびパートナーシップに適用されます。
従って、会社に外貨建借入金の期末残高がある場合には、たとえ将来の為替変動をヘッジするための為替予約を締結していても、タイ中央銀行が公表する売相場を用いて換算しなければなりません。換算から生じる為替差損益は、税務上の損金/益金として扱われます。
他方、為替予約から生じる為替差損益は、税務上、予約契約期間中は認識されず、予約決済時に損金/益金として扱われます。

<質問>

外貨建借入を行い、為替変動をヘッジするために為替予約契約を締結しました。税務上、借入金の期末日における為替換算はどのようにすればよいのでしょうか?

歳入局通達仏暦2541年 Paw68号の適用

為替予約契約に係る債権・債務を契約日において処理する場合の取扱いとして、外貨建ヘッジ契約についての通達歳入局通達仏暦2541年Paw68号が歳入局から公表されています。一般的に、この通達の適用は会社の任意と解釈されていますが、適用する場合は下記の要件を満たす必要があります。

(1)為替予約契約の契約先が商業銀行であること(タイに事業拠点を有するか否かは問わない)。

(2)為替予約契約の目的が、将来の外貨建債権・債務の為替変動に対するヘッジであること。

(3)複数の為替予約契約がある場合、すべての契約について、契約日において同一の処理を行うことが必要である。契約ごとに異なる処理を行うことはできない。

(4)税務上のみならず、会計上も同一の処理をしなければならない。

この場合の処理方法は下記のとおりとなります。
①為替予約契約上、(a)商業銀行は会社に対して予約期日に(借入金に相当する)外貨を提供する義務があり、(b)会社は商業銀行から当該外貨をバーツ(固定)で購入する義務がある。したがって会社は帳簿上、商業銀行に対する(a)債権(外貨購入権)および(b)債務(バーツ支払義務)を計上しなければならない。
②期末日において、会社は歳入法典第65条bis(5)により、為替予約契約における外貨建契約債権(a)を直物買相場を用いて換算するとともに、ヘッジ対象となった外貨建債務(借入金)を直物売相場を用いて換算する。この結果、外貨建債権・債務から生じる為替差損益は基本的に相殺され、相殺されない部分(直物買相場と直物売相場の差額)については税務上の損金/益金として扱われる。
③為替予約契約に基づく外貨引渡日において、会社は商業銀行から外貨を受領し、対価としてバーツ(固定)を支払う。この場合、会社は受領した外貨を、歳入法典第65条bis
(5)の規定する市場為替相場(商業銀行の買相場)によりバーツ換算しなければならない。

他方、会社は同時に商業銀行から受領した外貨をもって外貨建債務(借入金)の弁済を行う。この場合、会社はこの決済取引を、歳入法典第65条bis(5)に規定する市場価格(商業銀行の売相場)をもって換算しなければならない。②同様、直物買相場と直物売相場の差額)については税務上の損金/益金として扱われる。
為替予約契約に関し、歳入局通達においてその取扱が言及されていないものの一つとして、約定日に生じる「プレミアム/割引」をどのように処理するかという問題があります。「プレミアム/割引」は予約レートと予約時のスポットレートの差より生じる差額です。
一般に公正妥当と認められる会計基準(GAAP)では、その額を為替予約期間において繰延償却することが認められていますが、歳入局がこれについて①約定日において認識、②契約期間において繰延償却、③契約満 期においてのみ認識、のうち、いずれを要請しているのかは明らかではありません。

◎このコラムは「時事速報BANGKOK」で以下年月に掲載されたものです。
2016年6月1日、7月6日


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