新たな視点で時代の動きを読み取る ASEAN経営戦略

Vol.2 デジタル化で生き残る伝統的小売

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新たな視点で時代の動きを読み取る ASEAN経営戦略 Vol.2

東南アジア諸国連合(ASEAN)における様々な業界の旬なトピックを、ドイツ発のコンサルティング会社ローランド・ベルガーが経営戦略的な観点から解説する。今回のテーマは「デジタル化で生き残る伝統的小売」について。

 

デジタル化で生き残る伝統的小売

 ASEANの現地の人々にとって、伝統的小売と言われる個人経営の零細商店や露店は、日常の食事や買い物に欠かせない、生活に根付いた重要な小売チャネルだ。全世界平均で見ても、シンガポール、フィリピンを除くASEANの国々は伝統的小売の占める割合がまだまだ高い(図表)。

図表 小売市場全体に占める伝統的小売の割合(2019年)[金額ベース]

 だが、日系の食品・飲料や日用品メーカーにとって、これら伝統的小売は悩みの種でもある。各店舗は個人経営が基本で、コンビニやスーパーマーケット等の近代的小売のように、本部機能が存在しない。そのため、商品を置いてもらうためには一軒一軒回って開拓しなければならず、専門の営業部隊が必要となってくる。

 相手は地元の商店主であるため、こちらも現地の人材で組成することとなり、組織としてのマネジメントが難しくなる。加えて現地人材とはいえ、膨大な数の店舗をカバーする体制を作ろうとすると固定費もかさむ。代金回収が上手くいかないといったトラブルも多い。

 もちろん、自前で営業部隊を持つのではなく、伝統的小売にネットワークを持つ現地代理店を使うという手もある。だが、有力な代理店は既に先行参入したメーカーに抑えられていたり、代理店を通すことで消費者が見えにくくなるというデメリットもある。

 このように悩ましい存在ではあるが、物理的に張り巡らされたネットワークを上手く活用しようという動きが起こっている。伝統的小売というフォーマットは残したまま、デジタル化させることで新たな流通・小売体系を生み出そうという試みだ。その事例を3つ紹介したい。

「伝統的小売」に分類される個人経営のパパママ・ストアや屋台
「伝統的小売」に分類される個人経営のパパママ・ストアや屋台

消費行動のビッグデータ化でビジネスチャンスを拡大

 一つ目はインドネシアのスタートアップであるMOKAと、配車アプリケーションのGo-Jekによる「伝統的小売での消費行動のビッグデータ化」だ。MOKAの主力製品はモバイル向けPOS(販売時点情報管理)である。モバイルベースであるがゆえに導入ハードルが低く、ワルンと呼ばれるインドネシアの伝統的小売の飲食店等でも、MOKAの決済端末を見かけることが増えた。

MOKAの主力製品であるモバイル向けPOSシステム
MOKAの主力製品であるモバイル向けPOSシステム

 Go-JekはそのMOKAを昨年買収している。ワルンでの膨大な消費行動をMOKAによってデータ化するという目論見だ。そのデータを解析することで、店舗ごとに最適な商品ラインナップを提示し、伝統的小売の経営改善を図ろうというのだ。

 しかし、Go-Jekの目的はそれだけではない。Go-Jekは既に配車タクシーやフードデリバリー、買い物代行などの膨大なオンラインの消費データを集積している。そこにさらに、これまで未開の地であった伝統的小売というオフラインの消費データも取得することで、インドネシアの消費データを牛耳ろうという狙いが見え隠れする。蓄積されたビッグデータは商品開発、マーケティング、生産計画などに活かされ、あらゆるビジネスチャンスに繋がることだろう。

低コスト調達を実現する共同購買プラットフォーム

 二つ目はマレーシアのdropeeによる「伝統的小売の共同購買プラットフォーム」を紹介したい。dropeeとは、伝統的小売等の小規模・零細商店が、低コストの商品調達を実現するための共同購買プラットフォームである。商店が行うことは、プラットフォーム上で調達したい商品を選ぶだけ。他に同一商品を購入したい小売業者がいれば、自動で共同購買化され、一個当たりの調達価格が割引される。

 共同購買の対象は商品そのものだけではない。物流も自動で共同化され、合積みによる低コスト化が実現される。メーカー側にとっても、通常リーチできていない小売事業者に対して、プラットフォームを通じた効率的な新規開拓ができるというメリットがもたらされる。物流事業者にとっても積載率を高めやすいという、まさに三方良しのビジネスモデルと言える。

店舗網を活かしたEC宅配拠点化

 三つ目として「伝統的小売のEC(電子商取引)宅配拠点化」に触れる。ASEANにおいてECが大きく伸長していることはご存知の方も多いだろう。だが、いまだEC市場拡大のボトルネックと言われているのが物流だ。特に顧客への最後の一区間である、ラストワンマイルの課題は多くの国で残る。

 その中、三井物産はインドネシアでECでの購入商品をワルンで受け取れるようにし、この物流課題をクリアしようと試みている。同様の取り組みは、Amazonがインドで行っている。キラナと呼ばれるインドの伝統的小売をECの保管・配達拠点にするため、数千もの零細商店と提携したのだ。

 ECというオンラインプラットフォームが、オフラインである伝統的小売を活用する動きは、まさに世界各地でのトレンドと言えるだろう。加えて、三井物産にしてもAmazonにしても、単にECの宅配拠点化を最終目的としているのではない。伝統的小売のファイナンスや在庫管理、顧客関係管理(CRM)などのソリューション提供を通じて、より密なリアルネットワークを築こうとしているのだ。

 今回ご紹介したのは3つだが、他にも伝統的小売のデジタル化に関する事例は非常に増えている。彼らの持つ物理的店舗網はコンビニ以上だ。コンビニの店舗数を増やしていくのと、伝統的小売をデジタル化して有効活用するのとでは、どちらが正しい経営判断か──その問いに答えるのは現時点では難しいかもしれない。

 だが、これまでのように、「伝統的小売はただ駆逐されていく存在」とは言い切れなくなってきていることは間違いないだろう。

 

Author Profile

下村 健一
Roland Berger
下村 健一

一橋大学卒業後、米国系コンサルティングファーム等を経て、現在は欧州最大の戦略系コンサルティングファームであるローランド・ベルガーのASEANリージョンに在籍(バンコク在住)。ASEAN全域で、消費財、小売・流通、自動車、商社、PEファンド等を中心に、グローバル戦略、ポートフォリオ戦略、M&A、デジタライゼーション、企業再生等、幅広いテーマでの支援に従事している。

情報

Roland Berger
TEL:+66 95 787 5835(下村)
Mail:kenichi.shimomura@rolandberger.com
URL:www.rolandberger.com

17th Floor, Sathorn Square Office Tower,98 North Sathorn Road, Silom, Bangrak,10500 | Bangkok | Thailand


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