新たな視点で時代の動きを読み取る ASEAN経営戦略

Vol.3 アフターコロナを見据えた東南アジア投資戦略

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新たな視点で時代の動きを読み取る ASEAN経営戦略 Vol.3

東南アジア諸国連合(ASEAN)における様々な業界の旬なトピックを、ドイツ発のコンサルティング会社ローランド・ベルガーが経営戦略的な観点から解説する。各国で新型コロナウィルスの感染が拡大する中、今回のテーマは「アフターコロナを見据えた東南アジア投資戦略」について。

新型コロナウィルスによって東南アジアの経済活動は大きく制限されている。4月下旬時点で、各国で都市封鎖(またはそれに準じた)措置が行われ、企業は思うような動きが取れなくなっている。投資活動への影響も大きく、新型コロナウィルス以前から進めていた投資案件が見送りとなったという話は各所で聞く。不透明な先行きの中、企業が投資に対して慎重になっている。

しかし、この状況はチャンスでもある。他社が投資を控える今、終息後のアフターコロナ(もしくは共生するウィズ・コロナ)での成長に向けた好機と捉えられるはずだ。

本誌の読者であれば、日系企業にとって東南アジアが重要な投資地域であることはよくご存知だろう。だが、それは日系企業にとってだけでなく、他国企業にとっても同様だ。一帯一路を背景に投資を進める中国企業や、実は米国企業も投資の規模を高めている(図表1)。まさに、東南アジアは世界屈指の重要投資地域と言える。

図表1 米国の対外直接投資額内訳(単位:10億米ドル)

しかしながら、この東南アジアの市況も当然ながら新型コロナウィルスによって大きく変化している。図表2は今年初めからの東南アジア各証券取引所の平均株価下落率を示している。全ての取引所で平均株価は下がっており、特にフィリピン、インドネシアの下落率は25%を超える状況だ。

図表2 東南アジア各証券取引所の平均株価下落率

それを産業別に見たものが図表3である。新型コロナウィルスが東南アジア経済へ影響をもたらし始めた時点から、EV/EBITDA※1)が各産業でどのように変化したかを表している。こちらはヘルスケアを除く全ての産業で下がっており、そのほとんどが20%を超える下落率だ。その中でも金融機関は54%もの下落となっている。

図表3 各産業の平均EV/EBITDA倍率推移(東南アジア全体)

もう一点、別の角度で影響を見てみよう。図表4は、日本円、米ドル、ユーロに対する東南アジア各国通貨の為替変化だ。こちらも今年初頭から、フィリピンペソ以外の全てが対円・ドル・ユーロで弱くなっている。特にインドネシアルピアとタイバーツが顕著で10%前後の下落率である。

図表4 東南アジア各国通貨の為替変化

以上から各国、各産業の程度差はあれど、新型コロナウィルスによる影響は株価、企業価値、為替といった指標にも如実に表れていることが分かる。このことは、東南アジア経済の落ち込みを示す一方、資金余力のある企業にとっては投資のチャンスとも取れる。

単純な話、株価・企業価値が下がり、為替も自国通貨が相対的に強くなれば、従来よりも低価格で買収ができるということだ。もちろん、単に「安いから買う」ということを勧めるわけではない。だが、財務的に見ると投資の好機であることには間違いない。

このタイミングで自社のポートフォリオ戦略を再整理した上で、東南アジアで良質な投資案件を発掘することは、アフターコロナにおける立ち位置を決める重要な打ち手になる。

実際、いち早く経済活動を再開した中国企業は、株価が下がっている欧州企業などの〝爆買い〟を始めている。弱っている企業への買収策はネガティブに捉えられるかもしれない。だが、本来、正しいパートナー/アライアンス戦略の下での出資・買収は双方にとって有益なものだ。東南アジア現地企業からも「受けられるはずだった資金投入が流れてしまい資金難に陥っている」という話はよく聞く。

この状況下、適切な戦略に基づいて東南アジア企業へ投資することは、自社の飛躍のみならず、彼らに対しての救済策にもなる。今の時勢をうまく捉えれば、投資先・元の双方にとって平時では成し得ない逆転劇を実現できるはずだ。

必要十分な手元資金を確保しながらも、将来への投資にもぜひ目を向けて欲しい。

※1)EV(企業の時価総額)がEBITDA(税引前投機営業利益+減価償却費)の何倍であるかを示す。企業が年間で稼げる利益額に対して、市場での評価額の倍率を表す指標。この値が大きければ大きいほど、実際に稼げる利益よりもその企業が高く評価されていることになる。

 

Author Profile

下村 健一
Roland Berger
下村 健一

一橋大学卒業後、米国系コンサルティングファーム等を経て、現在は欧州最大の戦略系コンサルティングファームであるローランド・ベルガーのASEANリージョンに在籍(バンコク在住)。ASEAN全域で、消費財、小売・流通、自動車、商社、PEファンド等を中心に、グローバル戦略、ポートフォリオ戦略、M&A、デジタライゼーション、企業再生等、幅広いテーマでの支援に従事している。

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