2020.10月号

新たな視点で時代の動きを読み取る ASEAN経営戦略

Vol.7 タイ+中国連合がもたらす商用車【物流業界の変革】

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 東南アジア諸国連合(ASEAN)における様々な業界の旬なトピックを、ドイツ発のコンサルティング会社ローランド・ベルガーが経営戦略的な観点から解説する。今回は「タイ+中国連合がもたらす商用車/物流業界の変革」について論考する。

タイを含めた東南アジアの商用車業界は、日系勢が高いシェアを誇る市場である。長い歴史を通じて築いたサプライチェーン、販売ネットワーク、そしてブランド力によって揺るぎない地位をもたらした。

だが、近年はデジタルを軸としたバリューチェーン(価値連鎖)ビジネスへの転換など、新たな課題が顕在化してきている。長年の実績で積み重ねたビジネスモデルからの脱却が求められているのだ。

もちろん各社、様々な取り組みを進めている。だが、移行に与えられた猶予期間は想像以上に短いかもしれない。外的脅威の侵攻が思ったよりも速いからだ。その外的脅威とは、タイ+中国連合である。具体的には、タイ財閥のCPを中心とした、FOTON(北汽福田汽車)、SAIC(上海汽車)といった中国系自動車プレイヤーとの連携だ。

本稿では、このタイ+中国連合が商用車/物流マーケットでどういった変革を起こし得るか、その仮説を論じたい。だが、その前にそれぞれのプレイヤーについて、この連合の観点で抑えるべき特色を確認しておく。

各プレイヤーの特色

商用車大手FOTON CASE/MaaSへの先進性

FOTONは中国における商用車の大手だ。彼らの強みの一つは、CASE(Connected/Autonomous/Shared/Electricity)やMaaS(Mobility as a Service)に対する先進性である。EVはもちろん自動運転トラックにおいても、FOTONは中国で先頭を走っている。

物流業界とのコラボレーションにも熱心で、単なるトラックメーカーとしてではなくサービスプロバイダーとしての在り方を強く志向している。中国物流大手のJDロジスティクスとの自動運転プロジェクトも話題となった。

また、テレマティクスの領域ではファーウェイと連携し、世界最新鋭の車載器通信の実現を目指している。

乗用車大手SAIC 本気が伺えるピックアップ投入

CPがFOTONに先駆けて提携したSAICは、乗用車における中国の三大メーカーだ。一般的な乗用車モデルだけでなく、2019年にはピックアップトラック「エクステンダー」も投入。タイにおいて商用兼乗用のピックアップトラックは、新車販売の6割を占める重要市場である。シェアはまだまだだが、力の入れ様が伺える。

エクステンダーをフードトラックに改造したモデルを発表したこともその一つだ。屋台文化が根付くタイにて、具体的用途を喚起させる狙いである。また、紹介者には現金1万バーツを進呈するキャンペーンも実施。

ピックアップトラック市場に本気で挑もうとしている。

タイの巨大財閥CP 流通網には課題も

CPは言わずもがなタイを代表する財閥グループである。コアビジネスは食品事業。メーカー機能から流通、そして小売まで一気通貫でサプライチェーンを抑えている点が強みの一つである。

そのCPの販売ネットワークはタイのみならずメコン他国にも及び、小売チャネルはグループ内のセブンイレブンやフレッシュマート、マクロに加えて、グループ外のテスコなど多岐に渡る。

コンビニ、スーパー、ショッピングモール、そして飲食店などあらゆる業態、そしてタイ国内外へCP商品は卸されており、CPの流通がいかに巨大で複雑であるかは想像に難くないだろう。実際、CPは長い歴史での業容拡大とともに、流通ネットワークを足し算的に積み重ねてきた。

結果、流通は膨れ上がり、そこには効率性を追求すべき余地が多く残されているようだ。流通改革はCPにとって大きな課題の一つなのである。

商用車/物流業界の変革可能性

タイの商用車市場は日系が8~9割を占める。タイ+中国連合が日系と同じやり方で今から巻き返すことは不可能だろう。

その状況も踏まえると、彼らとして目指す在り方が、従来型商用車ビジネスとは全く異なるものである可能性は高い。仮説を含めてその可能性をいくつか提示する。

❶ テレマティクスで繋ぐ商用車バリューチェーンビジネス

FOTONが中国で培ったテクノロジーを活用して、商用車バリューチェーンビジネスの確立をタイで目指す。特に、テレマティクスをテコとしたアフターサービスの入庫率向上、認定中古車ビジネスの確立、そして新車代替への途切れることのないサイクルは確実に抑えてくるだろう。

まだシェアが伸び切らないSAICのピックアップトラックも、テレマティクスによって良質な車両状態の把握、維持を実現し、認定中古車制度を取り入れるなどすれば顧客の囲い込みは進む。

日系勢もまだ完全に成し遂げられていないバリューチェーンビジネス化を、新参ゆえに振り切って挑んでくる可能性はあるだろう。

❷ CPを実験場とした物流ソリューション

テレマティクスで集積される車両や物流のデータを用いることで、車両管理といった物流プレイヤーに対するソリューション提供も考え得る。そこで活きるのがCPが持つ巨大なサプライチェーンだ。

前述の通り、CPにとって流通効率化は大きな課題である。CPが自前の連合を使って課題を解消できればその効用は甚大だ。だが、それ以上にCPという巨大なビジネスで物流ソリューションの実証実験ができる意義は大きい。結果、CPの莫大な物流データも蓄積される。

これこそ商用車メーカー単体では成し得ないことであり、CPを有するがゆえの最大の優位性ではないだろうか。

 

❸ 商用車/物流プラットフォーム

特定の商用車ブランドに限定せず、様々な商用車ブランドを対象とした部品販売やアフターサービス、販売金融、中古車販売、そして貨物マッチングなどを包含したエコシステム。商用車や物流界隈でこうしたプラットフォームビジネス化を目指す動きは多い。だが、その覇権を取り得る規模に至るのは簡単ではない。

日系商用車勢であれば、圧倒的シェアを誇るUIO(保有台数)がその土台になる。だが、CPが持つ巨大な物流ネットワークとそこから得られるデータを抑えられれば、UIOとは別の形で商用車/物流プラットフォームとしての閾値を超えるのではないだろうか。

タイ+中国連合はまだ商用車ビジネスとしての強い事業基盤を当地では持たない。ゆえに、三つ目に触れたプラットフォーム創りなどに今後振り切る可能性もあるだろう。プラットフォーム型の市場に移行してしまうと、既存のビジネスモデルが一気に陳腐化してしまう。

そして、一度、プラットフォームとしての業界標準を取られてしまうとそこからの巻き返しは難しい。それをやろうとしているのが、単なる小規模スタートアップでないことは脅威だ。CPという巨大な後ろ盾があれば、全く新しい商用車/物流の秩序に塗り替えられる日が遠くないのかもしれない。

寄稿者プロフィール
  • 下村 健一 プロフィール写真
  • Roland Berger下村 健一

    一橋大学卒業後、米国系コンサルティングファーム等を経て、現在は欧州最大の戦略系コンサルティングファームであるローランド・ベルガーのASEANリージョンに在籍(バンコク在住)。ASEAN全域で、消費財、小売・流通、自動車、商社、PEファンド等を中心に、グローバル戦略、ポートフォリオ戦略、M&A、デジタライゼーション、企業再生等、幅広いテーマでの支援に従事している。

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