SBCS タイ経済概況

Vol.2 コロナを契機に変化するタイ社会

この記事はPDFでダウンロードできます

ダウンロードができない場合は、お手数ですが matsuoka@mediator.co.th までご連絡ください。

※入力いただいたメールアドレス宛に、次回配信分から定期ニュースレターを自動でお送りしております(解除可能)

タイ国家経済社会開発委員会(NESDC)は5月18日、2020年第1四半期の経済成長率(速報値)が前年同期比▲1・8%であったと発表。新型コロナウィルス感染対策に伴う各種活動規制が、あらゆる経済活動に影響を及ぼしていることなどから、通年の予測を2月時の前年比+1・5%~+2・5%から、▲5・0%~▲6・0%へと下方修正した。

タイを深く知るコラム

タイ人の特徴を表すタイ語に「サバーイ(快適)」「サドゥアック(便利)」「サヌック(楽しい)」が挙げられる。新型コロナウィルス(以下、コロナ)対策を通じて、ここに「サアーット(清潔)」と「プロートパイ(安全)」という単語が加わりそうだ。

タイ社会はコロナの感染拡大に対して驚きの対応力を示した。至る所にアルコール消毒液が置かれ、マスク着用率はほぼ100%。マスクなしではコンビニにも入れない。オフィスビルやスーパーマーケットに入ろうとすると検温があり、入場を拒否される人を見かけることもある。ソーシャルディスタンス(社会的距離)が求められると鉄道には隔席で×マークが貼られ、そこには誰も座らなくなった。

これらは「(一部は罰則のある)ルールだから守っている」という人もいるだろうが、純粋に「感染したくない」という警戒心から徹底されている部分も多い。その証拠にフードデリバリーでは、宅配業者が商品をテーブルに置いて配達人が離れてから顧客が受け取る、というサービスまで生まれた。こうして人々が「サアーット(清潔)」を求めた結果、コロナどころか風邪に罹る人が減り、当社では病欠する人が激減した。

コロナ対策としてやってみたところ、清潔・安全なだけではなく、便利で快適であったことがある。これらのサービスはコロナが終息しても社会に根付くだろう。

例えば、コロナ前から利用者を増やしてきたオンラインショッピングやフードデリバリーは一気に浸透した。感染リスク軽減を目的に始まった在宅勤務は「プロートパイ(安全)」に加えて通勤時間がなくなり快適で便利だ。在宅勤務でも結果を出せる人にとっては、デメリットよりメリットの方が多いことに気付いた。

仮に週1日を在宅勤務にすると、スーツ、シャツ、ビジネスシューズ、化粧品などの消費量は減るだろう。一方、自宅をもっと快適にしたいというニーズが高まり、生活家電などのビジネスチャンスが拡がるかもしれない。週2日の在宅勤務が可能であれば、都心に住む理由すら薄れてしまうだろう。

コロナ前とコロナ後では社会が変化する。今からコロナ後を見据えて動き始めよう。

寄稿者プロフィール
  • 長谷場 純一郎 プロフィール写真
  • SBCS Co., Ltd.
    Manager, Business Promotion Division
    長谷場 純一郎

    奈良県出身。2000年東京理科大学(物理学科)卒業。日本貿易振興機構(ジェトロ)入構。山形事務所などに勤務した後、10年チュラロンコン大学留学(タイ語研修)。12年から18年までジェトロ・バンコク勤務。19年5月より現職。

SBCSは三井住友フィナンシャルグループが出資する、SMBCグループ企業です。1989年の設立以来、日系企業のお客さまのタイ事業を支援しております。

【免責】当レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。当レポートは単に情報提供を目的に作成されており、その正確性を当社及び情報提供元が保証するものではなく、また掲載された内容は経済情勢等の変化により変更される事があります。掲載情報は利用者の責任と判断でご利用頂き、また個別の案件につきましては法律・会計・税務等の各面の専門家にご相談下さるようお願い致します。万一、利用者が当情報の利用に関して損害を被った場合、当行及び情報提供元はその原因の如何を問わず賠償の責を負いません。

3月〜5月 ○ 経済・政治関連トピック 2020

経済

ソムキット副首相は3月11日、国家電気自動車(EV)政策委員会の初会合を開催した。EV生産の投資拡大に向けた税制優遇策等を検討し、2025年までに国内におけるEVの年間生産台数25万台を目指す。また、さらに5年後の30年にはEVの生産台数を自動車生産台数全体(250万台)の30%に当たる75万台に拡⼤するとしている。

今後、タイ投資委員会(BOI)によるEV事業者の法⼈税免除期間の延長(現状8年)や、200キロメートルごとの公共車両向け充電スタンド設置等を検討するとした。


3月18日、タイ国鉄のウォラウット総裁代行は21年初めにも、バンスー中央駅と同駅を起点とする都市鉄道ダーク・レッド・ライン(ランシット駅間)、およびライト・レッド・ライン(タリンチャン駅間)が開通する見込みであると発表した。

同時点で工事進捗率は98%に達している。バンスー中央駅は25年の完成が目指されているウタパオ、スワンナプーム、ドンムアンの3空港を連結させる高速鉄道の停車駅にもなる予定で、現在のフアランポーン駅に代わる新ターミナル駅となる。


タイ投資委員会(BOI)は4月13日、新型コロナウィルス対策に伴い需要が増加した医療機器等の生産投資を促進する新たな奨励策を決定した。対象となるのは医療機器、医療機器部品、医療用品の原材料となる不繊布、診断・検査キット、医薬品およびその有効成分の生産事業で、3年間の法人税50%減免恩典が追加で付与される。

20年6月30日までの申請と、同年12月末までの生産開始、売上の計上が条件であり、加えて20~21年の間は生産量の50%以上をタイ国内向けに出荷する必要がある。また、医療機器等を生産する既存事業についても、生産拡大のための機械等の輸入関税を免除する。20年9月までの申請と、同年内の輸入が条件。


タイ政府は4月19日、「通信を利用した会議に関する勅令」を官報に公示した。本勅令により参加者がタイ国外にいる場合でも、通信を利用して株主総会および取締役会等の会議に参加できるようになった。

なお、通信を利用した会議は、デジタル経済社会省の告示(14年12月4日)のセキュリティ基準に準拠する必要があり、同省の公式ウェブサイトにてガイドラインが公開されている。新型コロナウィルスの感染拡大の影響を受け、民間企業の間では定時株主総会の実施が困難になるといった問題が生じていた。

政治

3月26日、タイ政府は新型コロナウィルス感染拡大を受け、国内全土に対し非常事態を宣言した。これに先立ち、プラユット首相はテレビ演説を通じて新型コロナウィルス感染拡大を防ぐための理解と協力を国民に呼び掛けた。

その後、ウィサヌ副首相が感染を拡大する可能性のある場所の閉鎖や、フェイクニュース流布を禁じる規制等が全土に対して4月30日まで適用される旨を発表(注)。政府は非常事態宣言に伴いプラユット首相を責任者とする非常事態対策本部を設置している。

(注)5月26日に6月末までの延長が決定された


国際協力機構(JICA)は3月30日、タイ政府との間で産業人材育成事業を対象とする円借款貸付契約を調印した。19年4月から開始された本事業は、バンコクに2校の高等専門学校(高専)を新たに設立し運営するものであり、日本の高専と同水準の高等専門教育および日本の高専への留学機会を提供することで、実践的でイノベーティブなエンジニアの育成を目的としている。

総事業費は166億8,000万円で、うち円借款対象額は94億3,400万円。全奨学金プログラムの修了(32年3月)をもって事業完成となる。


タイ政府は4月15日の閣議にて、21年度(20年10月~21年9月)予算案を再編成する計画を承認。各省庁に予算の見直しが命じられた。新型コロナウィルス感染拡大に対応する財源を確保できるよう、原則として投資支出を50%、経常支出を25%削減し、緊急時に備えて中央予算に組み込む。

同年度予算は歳出3兆3,000億バーツ、歳入2兆7,770億バーツ、財政赤字5,230億バーツで承認されている。

\こちらも合わせて読みたい/

Vol.1 意外と知られていないSMART VISA

この記事はPDFでダウンロードできます

ダウンロードができない場合は、お手数ですが matsuoka@mediator.co.th までご連絡ください。

※入力いただいたメールアドレス宛に、次回配信分から定期ニュースレターを自動でお送りしております(解除可能)

gototop