ArayZオリジナル特集

SCGハイム、サハ東急コーポレーション、日系住宅メーカー、不動産開発業も参入! タイの住宅開発市場

積水化学工業 × サイアム・セメント(SCG) × チュラロンコン大学サシン日本センター 対談

タイの住まい、暮らし方を変えた日本の工法技術

積水化学工業とタイの財閥企業グループ、サイアム・セメント(以下、SCG)は2009年に合弁会社・SCGハイムを設立。セキスイハイムの気密性や断熱性に優れた工法である「工業化住宅」をSCGのブランドと営業力でタイに広め、ビルダー業界でシェア7%を獲得、トップの座についた。
タイ住宅市場の現状とSCGハイムの戦略について、積水化学工業・住宅カンパニー海外事業推進部の波多江 敏彦氏、SCGハイム・プロジェクトセールスマネージャーのチャイラット・ヌガムナロンチャイ氏、そしてアジア地域有数のビジネススクールであるサシン経営管理大学院付属日本センター所長の藤岡資正氏に対談いただいた(以下、敬省略)。住宅メーカーや不動産開発業者などの日系企業参入が相次ぐ、タイの最新住宅業界事情に迫る。

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SCG-SEKISUI SALES CO., LTD.
1 Siam Cement Rd., Bangsue,
Bangkok 10800
GRAND REGENT RESIDENCE
33/9 Moo 1, Pong, Bang-La-Mung,
Chonburi 20150
http://www.grandregent.co.th

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チュラロンコン大学サシン経営管理大学院
サシン日本センター 所長
藤岡資正

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SCG-SEKISUI SALES CO., LTD.
Project Sales Department / Manager
チャイラット・ヌガムナロンチャイ

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積水化学工業株式会社
住宅カンパニー海外事業推進部
波多江 敏彦

メガシティからメニーシティへの戦略転換

波多江:タイ進出を検討開始〜決定した2007〜2008年当時、バンコクと首都圏においては一戸建てがコンドミニアムの戸数を上回っていました。09年を過ぎてからは地価の上昇と空き地の減少も手伝い、一戸建ての数は減少、コンドミニアムが増加しています。
チャイラット:近年タイの経済は低調気味で、外資、特に日本からの対タイ投資による経済効果はまだ住宅市場まで及んでおらず、10年ほど時間をかけて反映されるものと見込んでいます。
藤岡:国内消費に関しては今後の政治・社会情勢にもよりますが、過去の10年間と比べると経済成長はスローダウンするでしょう。そのことで、これまでの経済成長で覆い隠されていた経済的、政治的、社会的な重層的な課題が顕になってくることも考えられます。特に、社会構造的な問題である少子高齢化にどのように対応していくかが課題となります。先進諸国と比べ高齢化社会への移行期間が極端に短いタイは、労働力の確保という観点から、ラオス、カンボジア、ミャンマー、ベトナムといったメコン諸国と相互補完関係を築いていかなくてはなりません。
産業政策の観点からは、アジア最大規模の産業集積がタイ東部にあることもポイントになります。南部経済回廊の通過点にも当たり課題は山積していますが、インド側へと繋がるミャンマー・ダウェーの深海港が実現すると、その重要性はさらに高まることでしょう。東側、つまりベトナム側へのコネクティビティーは日本の支援で建設され、今年4月に開通したカンボジアとベトナムを結ぶネアックルン橋やカイメップチーバイ深水港湾の整備により大きく改善されました。
チャイラット:今年7月、新たに3つのモーターウェイ開発事業(パタヤ〜マプタプット、ノンタブリ県バンヤイ〜カンチャナブリ県、アユタヤ県バンパイン〜サラブリ県〜ナコンラチャシマ県)が承認されました。タイ政府によるこれらのインフラ投資は、日本を含むさらなる外資誘致へ繋がると思います。このような投資や消費を伸ばす要素が増えていけば、タイ経済の低調も長くは続かないはずです。
藤岡:昔は東京にも一戸建てが多くあったように、バンコク首都圏も1千万人以上が住むメガシティとなったことで地価が上昇し、徐々に郊外に住宅が増えています。積水化学工業さんも進出当初の計画ではバンコク首都圏の一戸建てをターゲットにしていましたが、現在は地方の衛星都市を射程に入れながら事業展開を進めています。こうした動きを、メガシティからメニーシティアプローチと呼んでいます。
50万人規模の衛星都市ができると住宅の需要も広がります。バンコク一極体制から郊外の衛星都市と国境沿いの開発地域、そして回廊をまたいだ「メコンという面でのビジネス」を捉えていかなくてはなりません。

タイの住環境に選択肢を増やした、SCGハイムの貢献

波多江:お客様の8割はサラブリの工場まで見学に来られ、実際に工業化住宅が作られる過程を見て、納得されてから購入されています。
チャイラット:タイではいくら家を建てる資金があっても選べるのはサイズとデザインくらいでしたが、セキスイハイムの工業化住宅が上陸し、高い品質という新たな選択肢ができました。
藤岡:タイの家の品質には"バラつき〞があります。見た目はきれいに仕上げていますが、これまでは機能よりも見た目重視で住宅に関してはパフォーマンスという概念がありませんでしたよね。消費者にとって判断基準が増えたり選択肢が増えることは豊かさにも繋がります。『工業化』住宅による標準化された高パフォーマンスな住宅をタイに持ち込んだことは、住環境における選択肢を増やし、生活の質を上げる大きな社会貢献と言えます。
チャイラット:SCGハイムの住宅は完成後もアフターサービス・チームが訪問し、チェック、修理対応しますので、お客様にはメンテナンス面で余計な費用をかけることなく、受動的に購入時の住宅環境をキープいただけます。タイでは従来、住宅保証はあっても1〜5年でしたが、当社が初めて20年保証を実現しました。
タイのデベロッパー、ビルダーで家を建てる場合、コストやスピードのコントロールを目的に作業を省略したり、建築現場に入る個々の大工によって品質が左右されるという懸念が生じるのですが、その点でも当社にはこれらを管理できる知識と技術があります。
波多江:工業化住宅は全工程の7〜8割を工場で作るため、研修学校を設けてワーカーをトレーニング&スキルアップすることでも品質を維持しています。タイでは通常、家を完成させるのに8ヵ月〜1年、長いと約2年の工事期間を要しますが、当社なら平均4〜5ヵ月です。
藤岡:経営の観点で言うと完成製品が設計品質として定められた目標値(精度)や規格とのバラつきを許容範囲に収めるということです。見た目の格好の良い欧米車よりも、メンテナンス費用が掛からず、燃費も良く、安心できる日本車の方が多くの国で支持されているのと同じように、工業化住宅の魅力も徐々に浸透していくことでしょう。安く適当なものを大量に作るのではなく、長期的に使えるよいものを作るという日本企業としての積水化学工業さんのフィロソフィーと、SCGさんの理念が合ったことが、タイでの工業化住宅成功に繋がったのだと思います。

長く使える、本当にいい家を作りたい

チャイラット:当社の住宅はサハ東急コーポレーション様が進める新築賃貸住宅『ハーモニック レジデンス シラチャ』プロジェクト(※前頁に記載)においても採用いただいています。
藤岡:シラチャでは家族連れの駐在員向けコンドミニアムが不足しており、特に欧米企業の方は本当は家族で過ごしたいという声をよく聞きます。
同プロジェクトは、この問題に対するソリューションの提供でもあります。家族で過ごせる幸せを実現する貢献ですね。
チャイラット:住宅と学校が一体となったひとつの街を作るという点では、パタヤの『グランド・リージェント』も同様で、こちらはグループコミュニティーの形成を目的に作られた大きなシェア型の賃貸住宅です。インターナショナルスクールに通う生徒の家族が複数入居し、子供は学校まで歩いて通えるという、東部エリアへ赴任中の外国人が家族と安心して暮らせる、これまでにない選択肢の誕生となりました。
波多江:『グランド・リージェント』はフェーズ1に30ファミリー、フェーズ2に17ファミリーが入居できる設計です。賃貸受付開始2ヵ月で近隣工業団地の管理職などに就く外国人ファミリーでほぼ満室となりました。
チャイラット:パタヤ、シラチャ、イースタンシーボードなどのエリアには、上述2件のようなオーナー、入居者、ビルダー3者がWIN×WIN×WINの関係になるビジネスチャンスがまだまだあるものと捉えています。タイの富裕層のなかには、自分の家を自分で設計(カスタマイズ)したいという願望を持つ人も多く、当社ではお客様へのヒアリングからご要望を伺い、専門家としての知識を携えご提案、工場で受注生産することで、理想的かつ高品質な住宅をご提供します。
もちろん住宅だけでなく、オフィスビル、ワーカー用ドミトリー、フィットネスなど、どのような建物も工業化住宅のノウハウと技術をもって建築可能です。
波多江:日本では受注の約4割がお客様のご紹介によるもので、タイでも紹介制度をスタートしました。評判が広まれば、当社をご指名くださるお客様の増加にも繋がるはず。当社製の住宅を建てること自体が宣伝になると考えています。

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