【連載第52回】但野和博のコンサルコラムサポート実録記

シーポム社編(8)
「派遣体制の仕切り直し」

(前回までのあらすじ)
〜派遣サポートとして2名投入するものの、結局残ることになったメイさんで現場をまわせる体制に戻し、一旦派遣を引き取ることとなった。その後、結局はメイさんが退職することになり再度派遣を再開するのだが…〜

シーポム社の常駐派遣として復帰したムマさんとラムさん。辞めたメイさんが受け持っていた連結システムへの入力業務なども晴れてムマさんがマネージャー“級”の役職として受け継いだ。ここがみそだが、マネージャーではなく“級”とつけて区別しているのは、これまで経理部門でマネージャーの役職をつけたことがなかったからだ。自社プロパー社員ではないのにマネージャーにするのは抵抗があるということでの落とし所だ。とはいえ、マネージャーに準じる業務内容を依頼されたので、本人に自覚を促すためにもマネージャー“級”という説明で納得して復帰してもらったのである。

一方のラムさんだが、ここでもう一波乱が待ち受けていた。

「話があるので、時間ください…」。シーポム社では話しづらいことらしく、こちらの事務所の会議室で面談となった。

「ムマさんにちょくちょく嫌味を言われたり、差別的発言をされるんです。このまま続けて働くのは無理かもしれません…」。涙も溢れさせながらの訴えであった。

ラムさんはイスラム教徒であるため少しの時間だが業務を抜けて礼拝しており、これに対する苦言がだんだん過激になって、なんでタイ人なのにイスラム教なのかということまで言われているらしい。≪※1≫

内容は完全に個人攻撃だが、ラムさんは感情を高ぶらせて話していることもあり、両者の言い分を聞いてみないと実態は分からない。ただ、そうこうしているうちに、結局は辞めることで話が決着していた。というか、止める間もなく辞めていったというほうが正しいだろう。

さてそうなると、早急に欠員を補充する必要がある。それが派遣という業務提供の本質だからだ。≪※2≫

「組織体制を充実させるため、在庫管理専門の入力パンチャーとミドル部門でベンダーとの商品管理にもう1人派遣できないでしょうか?」

まさかのこのタイミングでの山雲さんからの追加派遣依頼だった。すぐさま3名を派遣するため怒涛の面談をこなし、何とかシーポム社のお眼鏡に適った人員を採用でき、順次送り込んだのである。ラムさんの退職後、30代後半でいかにもスペックが高そうな割には以前感じた給与の割高感もないヌマさんという女性スタッフも採用でき、ようやく仕切り直しといというところまできたのである。ところが今度は要となるはずのマネージャー“級”のムマさんから…。 (続く)

 

※クライアント様の匿名性を保つために社名・人名等をはじめ、事実から離れすぎない程度の内容の変更等、脚色部分があります。

≪※1≫
タイでイスラム教を信仰するパターンとしては、南部地域のイスラム教徒の家に生まれたからというのが一番多いが、ラムさんの場合はご主人がイスラム教徒のタイ人だったためだ。ラムさん自身は典型的な仏教徒だったが、イスラム教に帰依しないと結婚はできない。日本では個人の信仰を履歴書に記載することはないが、タイでは通常記載欄があり、ここに無宗教と記載した人にこれまで会ったことはない。日本人が業務上、宗教に触れる機会があるのは、事務所移転や開所式に伴うタンブンで、お坊さんを呼んで商売繁盛などお経を読み上げてもらう仏教上の儀式くらいだが、宗教と不可分な社会特性を最低限理解しておく必要はあるだろう。
≪※2≫
依頼する側としてのメリットは、自社採用よりも多めに対価を負担してでも、退職リスクを限りなく排除し、代わりが必要となったら派遣元から派遣してもらえるということだろう。また依頼時に業務内容を明確にしておく必要があるのは言うまでもなく、できれば業務委託契約としても盛り込んだうえで、責任の所在や指揮命令系統などなるべく具体化しておいたほう良い。後日問題が発生した場合の備えとしても有効であるし、何よりも内部統制上のリスク管理としても必要である。

Accounting Porter Co., Ltd.
代表者 : 但野和博
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日本 (代表:日本国公認会計士相川聡志)
E-mail : kazuhiro.tadano@aporter.co.th
http://aporter.co.th/


但野和博
2012年5月タイ・バンコクにて、Accounting Porter Co., Ltd.を設立。日系企業の進出サポート及び経理を中心としたバックオフィスサポートを提供するサービス業として、同社を運営中。
日本での上場事業会社2社通算6年のCFO経験を活かし、日本本社部門との直接の対応を含み、現場では管理部門の立て直しを含めた相談にも対応している。
本コラムでは、タイの経理現場で起きていることを中心に具体的なサポート実例を交えて執筆中。

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