PwC タイビジネススタディ

企業における顧客マスターデータの管理と活用 ~データは一度作り、何度も使う~

「企業における顧客マスターデータの管理と活用
~データは一度作り、何度も使う~

1.ビジネス価値を有する顧客マスターデータを適切に保護することは企業の社会的責任ですが、脅威となるサイバー攻撃にはどのような手法があるのでしょうか?

2.企業は顧客マスターデータをどのように管理し活用することで、経営の効率化や新たなビジネスの創出が実現できるのでしょうか?

後藤恵美
Manager

2009年にPwCアドバイザリー株式会社 (現PwCコンサルティング合同会社)に入社、日本において電力会社の海外事業を連結決算早期化の面で支援する他、経済産業省をはじめとする政府機関の海外調査業務に従事。2016年1月にPwCコンサルティング・タイランドにジャパンデスク・マネージャーとして赴任。自動車業界を中心とするタイ国日本企業の業務プロセス改革の他、日本政府によるアセアン地域経済協力プロジェクトに参画している。米国公認会計士。

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1 顧客マスターデータはビジネスの宝庫、不正アクセスの脅威にさらされている

デジタル経済のもとでは、個人情報と行動情報(購買履歴やモノ、車、ソーシャルメディアを介した嗜好など)を組み合わせた大量データの分析・解析が高度化しています。名前、住所、電話番号、納税番号、世帯構成といった個人情報は、各国で保護規制が制定されており、タイにおいても個人情報保護法の制定へ向けた法案が公聴会で審議されています。

一方で、企業が有する顧客データは大きなビジネス価値を生むことから、データシステムへの不正アクセスなど、内部、外部からのサイバー攻撃の対象となっています。その主な手法としては、インターネットを通じた内部ネットワークへの侵入、顧客を偽サイトへ誘導するフィッシング、不正メールによる攻撃、公開ウェブサイトの改ざんなどがあり、攻撃者による情報の搾取が行われています。このようなサイバー上の危機を理解し、顧客データについて適切なセキュリティ施策を定めておくことは、企業の最低限の社会的責任です。


《図表1》企業に被害をもたらすサイバー攻撃の手法例
(資料)PwC作成

2 情報と業務プロセスの〝リ〟エンジニアリング

このような顧客マスターデータは、適切に管理し、これを活用することで、企業は効率性の高い経営を実現するとともに、新たなビジネスを創出することが可能になります。しかし実際には顧客マスターデータの管理や活用に関する問題を抱えている日系企業がタイでも多いのが実情です。その主な原因としては、情報が部門ごとに孤立していたり、データ管理が不統一のまま情報処理されていたり、不揃いな業務プロセスが採用されていたり、バリューチェーンの川下(販売部門、サービス部門など)において、上流、中流(R&D部門、生産部門、営業部門など)への考慮が払われていない、といった実態があります。

このため、ビジネスの宝庫である顧客マスターデータの管理と活用に際しては、情報と業務プロセスの〝リ〟エンジニアリングの観点から以下にあげるような施策が必要となります。

製造・販売会社を例にとってみると、各販売支店において登録された顧客情報は、顧客マスターデータに登録されます。この顧客マスターデータが統合管理されていると、R&D部門や生産部門へ製品に紐づいた顧客の属性や要望を伝えたり、営業部門やサービス部門に対してキャンペーンやコンタクト(メール配信、電話連絡、など)に関する顧客の絞り込みを行ったり、顧客行動の分析により既存製品・サービスの見直しや新たなビジネス領域への参入をトップマネジメントに示唆するなど、重要な情報源として機能します。

適切な顧客マスターデータの管理と活用により、企業は一度作ったマスターデータを何度も使い、

◎セキュリティの高いプラットフォームにおいて、
◎業務プロセスの標準化により生産性と内部統制を向上しつつ、
◎顧客とのコミュニケーション活動を多角的に展開し、
◎顧客サービスの品質を向上し、顧客満足度を高める
ことが可能となります。


《図表3》顧客マスターデータの統合管理

《図表2》情報と業務プロセスの“リ”エンジニアリングに必要な施策個人情報保護に対するインフラ整備
・内部、外部からの攻撃に対するネットワークセキュリティを含むインフラ環境を整備する

業務プロセスの標準化
・業務内容や役割に応じ、個人情報へのアクセス権限を規定する
・顧客マスターデータに関する業務プロセス(登録・更新・開示・破棄、等)を標準化し、履歴を残す

顧客マスターデータの統合管理
・企業内の全部門におけるデータ形式を標準化する(データ項目・定義、入力規則、等)
・定期的な名寄せにより顧客データ重複や不備項目をクレンジング(検出・修正)する
・部門間のデータを連携させる(例:販売部門において更新した顧客データをサービス部門の同一顧客データにも反映、など)

データを活用した顧客志向の経営実現
・データ活用の目的を明確にする(販売・サービス現場におけるデータ活用の目的、管理部門におけるデータ活用の目的、など)
・データの利活用に係るルールを整備する(データ利用に関する顧客の同意、マスターデータの分析軸・手法・頻度、など)
・顧客の活動・関心事・課題に関する効果的・効率的な分析を行い、関連部門へタイムリーにフィードバックを行う

PricewaterhouseCoopers
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