ArayZオリジナル特集

現場力を向上させる グローバル競争を勝ち抜くITソリューション

arayz oct 2014

本社と現場感の連携と情報共有を深め、企業の競争力を高めるSCMと、ITソリューション技術。販売・生産現場のグローバル拠点として、在タイ企業が今後戦略的に活動を行っていくための最新IT事情&ツールに迫る。

生産から販売まで、一連の流れに活用されているSCM(Supply Chain Management)の在り方と関連するITソリューションの活用方法、さらには人材視点での問題について、NTTデータグループのビジネスコンサルティングユニットである株式会社クニエ・田中大海氏と有村大吾郎氏に寄稿いただいた。

SCMに対する販売・生産現場でのイメージ

一口にSCMと言っても、目的も違えば取るべき手段も異なります。また、言葉の定義も実は企業や人にとって様々でしょう。調達・生産・物流・販売のそれぞれの実行をSCMと呼ぶ場合もあれば、一連の繋がりをSCMと呼ぶこともあります。また、昨今の天変地異を踏まえた拠点配置をSCMの構築と呼ぶこともあり、さらには、先を見据えた需要予測や生産計画などを合わせてSCMと呼ぶこともあります。
こういった「SCM」という言葉が表わす状況は元々、SCMが対象とする範囲が広く、かつ世の中で用語として広まりだしてからの年月が長く、各企業が自社の特性に合わせて取った対策がさまざまなものであったことに由来します。言葉が出始めた当初は、一般的に実行とその繋がりを主とした考え方が主流でしたが、昨今は市場環境の変化に伴い、予測や計画を指し示す場合が増えています。ただしこの流れは本社組織や管理組織に強く、特に生産・販売などの現場では日々の活動でそれほど強く意識されているものではないと思います。
日本国外の販売・生産などの拠点では、SCMに関してどのような取り組みをされてきたのでしょうか。おそらく、グローバルでの上記の取組みに必要な情報を提供したり、全体の方針に沿うような現場業務の改善に取り組まれたりしてきたと推察されます。つまり、望む・望まないに関わらず、従の関係で必至に取り組まれたことが中心であり、現場の要望や現状が必ずしも反映された活動でないことが散見されます。

 

arayz oct 2014 tokushu

 

未来を見据える先読みの必要性

かつてはSCMといえば「在庫削減」・「機会損失回避」・「リードタイム削減」、このあたりが大きな目的となっている企業が大半でした。
生産現場では生産を平準化し設備を安定稼働させ、品質を担保しながらコストダウンを図りたいというのが常日頃の活動方針ですが、販売からの要求が刻一刻と変わるなかで生産計画変更を繰り返しながら調達状況も確認し、その変化に追随することで精一杯だという状況は多いでしょう。加えて現場で起こるライン落ちや歩留り向上、更に品質確保などのさまざまな課題に直面し、それらにも対応しなくてはなりません。
販売現場では競合との争いが激しく、顧客からの引合いが大きく変化し、なかなか確定した受注となりづらい。販売ボリュームが変化した場合に供給可否や過剰供給になるのかどうかを気にしながら、単価も含めた難しい商談を進めなくてはなりません。
このようになってしまう原因はどこにあるのでしょうか。また、少しでも緩和・改善させる策は無いものでしょうか。グローバルにSCMを強化させている企業でもこれらの状況は大きくは変わらないと言っても良いかもしれません。しかしながら、対策を継続的に打ち続けることによって、少しずつ効果を出し続けており、それは徐々に大きな差になると
思います。
これらの取り組みのポイントの一つとして、受注や生産指示が確定するまでに至る「計画の先読み」があります。「先読み」そのものは別段新しい考えではないものであり、また当然ながら「先読み」であるために100%当たることはありません。しかしながら計画情報を「先読み」として複数パターン持ち、どのパターンで確定した時にどのように対応
を行うといったことを「事前に想定」しておく、これによって如何に変化への追随と素早い対応へ繋げていくかを準備しておくのです。
では、どのように今後起こり得る状況を先読みして想定し、複数のパターンを決めるのか。その肝は、実は販売現場や生産現場の「感覚」です。ただこの「感覚」は決して個人に依存して任せるものでは無く、不確定な先読みであってもそれらの情報を横断的に共有し、起こり得る順番にシナリオを想定する、という行為を企業全体で行うのです。これを複数パターンで実施していきます。
例えば、考えられる一つの状況として、下記のようなものがあります。

販売現場:顧客からの注文は2ヵ月で確定する。それまでの引合いは当てにならない。

生産現場:長納期部品の発注は3ヵ月。その後の追加発注は難しい。

上記の場合、一般的には販売からの確定発注への納期遵守がKPI(Key Performance Indicator)の一つとなっている場合が多い為に、少なからず生産現場では勘に基づいたバッファを含む部品手配を行います。そして、もし販売からの発注が減ると余剰在庫になってしまいます。この時は販売の責任を問いたいところですが、販売としても難しい予測であるために問われても状況はなかなか変わりません。
この状況を少しでも改善しバッファを調整するためにどのようにすれば良いでしょうか。不確定ではあっても先ずは販売ビジネスの現場として持っている「感覚」を元に想定受注数量の増減を判断し、この判断された数量については本社が責任とリスクを取って生産現場へ指示を出す、ということがパターンの一つとして考えられます。またその逆や派生形が、それぞれ一つのパターンとなります。そして、それぞれのリスクに対する対応策も準備しておき、状況が変わった際に直ぐに対応が取れるようにしておくのです。
言い換えると、今のビジネス環境では、変化が起こった後に対策を検討して準備を始めるのでは間に合わない、ということを強く認識することが重要です。今までのように、受注が急に飛び込んだからと、急いで部材発注を行ったために高い直接材料費となってしまい、普段努力している原価低減活動とは逆の事態を引き起こして生産現場の利益を圧迫す
る、という状況から脱却しなくてはなりません。
本社主導でグローバルなSCMを構築する、それは各国各拠点の販売現場と生産現場を繋ぐ方法を模索し、円滑に情報を共有してプロセスを回す仕組み構築していくものでなくてはなりません。各プロセスとその出口(結果)の品質は各プロセス内で改善できるものですが、入口の情報が正しくなければ、その努力は報われません。両方の入口を重視し、両者が判断に迷うことを、本社がバランスを取って先読みし判断することが求められます。

 

arayz oct 2014 tokushu

 

次ページ:タイの拠点から見たSCM

gototop