ArayZオリジナル特集

日系製造・販売業の今がわかる タイの産業界事情

【建材】経済成長に伴う中間層の増加でアセアン地域の住宅産業は急成長

arayz nov 2014 tokushuLIXIL Corporation Tostem Thai Co., Ltd.
Sales Managing Director
斉藤 博

AEC発足に向け、タイからアセアン諸国への建築資材(主に鉄鋼)の輸出が伸びている。なかでもミャンマーを筆頭に、カンボジア、ラオス、ベトナムはインフラ整備のため建築分野の伸びが好調である。
日本最大手の建材グループであるLIXIL は昨年、衛生陶器のアメリカンスタンダード・ブランズ、水栓金具のヨーロッパ最大手であるグローエを傘下に収め、今年タイ工場と同じく日本とアセアン市場向け生産を行う、2700トン規模の工場をベトナムのロンドゥック工業団地に開業。中期目標売上3兆円のうち日本国内を2兆円、海外を1兆円に定めている。
1987年に設立されたTostem Thai Co., Ltd. は、グループ最大規模のアルミ工場として敷地面積約59万㎡(工場全体)、約7000人の従業員を擁し、約7000トンのアルミ押出し能力を持つ。約85%が日本輸出向け(Global to Japan=GtoJ)に、残りの15%がタイ国内とアセアン域内への輸出向け(Globalto Global=GtoG)に生産されており、事業は住宅用のアルミサッシ建材事業とアルミ産業品事業(日系自動車、電気関連メーカーへのアルミ部品受注生産)の2つに分かれる。アルミ関連事業のタイ、アセアン内GtoG事業責任者である、斉藤 博氏に話を伺った。

アセアン地域の需要に合わせ伸びる、2つの事業

「当社は日本輸出向けの建材生産拠点として設立されましたが、タイは〝アセアンのデトロイト〞と言われるほど自動車・電気部品メーカーの製造拠点が多い一方で高品質なアルミの押出しメーカーがなく、日系メーカーからの『部品を作ってもらえないか』という依頼から、一部G to Gビジネスとして始めたのが産業品事業です。以後約20年に渡り、タイ・アセアンエリアのみで行っている事業になります。
Gto Gの建材事業を本格的に始めたのは08年頃で、現在は当社売上の60%超を産業品事業が占め、残りが建材事業という割合です」。
タイの住宅市場(持ち家数)は約20万戸、アセアン全体では推定50〜80万戸と言われているそうだ。昨今ではタイ国内でも高級ホテルやアパートの建設がラッシュを迎えており、バンコクと周辺だけで約10万戸、さらにそのうちの半分がコンドミニアムである。大手デベロッパー10社で市場の半分ほどを占め、増加するミドルアッパー層をターゲットに大量に住宅が作られている。
現地でサッシ業者というとアルミの加工が専門で、押し出しから加工、製品の生産までを一貫して行うような日本のスタイルとは異なる。アセアン諸国では1億円規模の小企業が数百社乱立しているような状況だという。
「タイだけでなくアセアン全体において建築建材の規格というものがありません。
日本では耐風圧、水密性、気密性がJIS規格で定められていますが、東南アジアは風が吹いても寒くないため、雨やほこりが入りやすく、騒音遮音できないようなサッシが多い。赴任当時そのギャップに気付き、設計事務所協会や大学、大手デベロッパーをまわり問題意識を聞いてみたところ『意識はしているが、それを改善できるサプライヤーがおらず、放置状態になっている』との答えが返ってきました。
早速日本製のサッシを紹介したところ、『日本製品は良いに決まっている』と言われました。車も家電もそうでしょう、知ってますよ、と。しかし日本製品は我々にとっては〝過剰品質〞であり、きっと売れないだろうと言われました」。

品質がリピートに繋がり長期的なビジネスに

タイ工場には商品開発部や試験センターがあり、小さな本社機能を持つことから、製造・販売が協働してアセアン向け品質・価格を実現した『We』というサッシを開発、デベロッパー大手数社に提案した。また試験センターを活用して、Weとローカルサッシの水密性能を実験することで、品質の高さを理解させたという。
斉藤氏は、サッシ業界においてローカルの強豪はいないが、アセアンの最大の問題は品質基準というルールがないことだと話す。ユーザーに性能の良さを徹底して浸透させれば、ユーザーは購入する住宅に性能を求める。販売するデベロッパーは性能を表示することで信頼を獲得すると考える。
「日本では少子化から、新築よりもリフォーム需要が増えています。タイはコンクリート建築物が多く、新築とリフォームが同時進行している状況です。周辺国では、人口の多さからインドネシアに注目しているほか、住居もオフィスも不足しているミャンマーは先手を打ちたい国です。アセアン地域は中国と異なり、現地でも存在感を持つ日系企業を意識したグローバル体制の作り方が求められるように感じています。住宅開発に関しても日系大手デベロッパーが続々と進出し現地デベロッパーと合弁を組んでいるため、そこに対するアプローチも重要と解釈しています」。

arayz nov 2014 tokushuナワナコン工業団地内の工場では日本向け製品の開発も行う

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