ArayZオリジナル特集

日系製造・販売業の今がわかる タイの産業界事情

【食品】原材料調達だけでなくマーケットとしても有望な市場

arayz nov 2014 tokushuPRIMAHAM(THAILAND)CO., LTD.
代表取締役社長
梅原 匠

「世界の台所」」として10年以上政府が食品輸出を促進しているタイは、農畜産品や海産物などの原材料確保が容易であることと製造加工に要する人件費の低さから、多くの日系食品メーカーが拠点を構えている。近年では日本人消費者の中国産食品への不信感から、企業が生産拠点をタイへ移管、または輸入元を中国からタイへ切り替る動きが多く見られる。
タイ国内市場においては、国内最大手のコングロマリット、チャルンポーカパン・フーズ(CP)グループが中核事業として生鮮・加工食品を国内外で販売しており、特にインスタント食品は周辺国でも高いシェアを獲得、中国への進出にも積極的という面で、他社と大きく差をつけている。そのほか、ユニリーバやネスレなどの外資食品系企業も参入済みで、日系では味の素が大きな成功を収めた先駆者と言える。
6億人市場と言われるアセアン諸国の中間所得者層増加と日本食人気から、日本ではなくシンガポールや香港など、第3国での販売目的に商品を生産する企業も増えている。
1992年にタイへ進出したハム・ソーセージメーカーのプリマハムも、タイからの食肉輸入の需要が高まり、チャイナリスク回避先として2004年、プラチンブリの304工業団地に新たなタイ法人と工場を設立した。当時すでにグループとしては中国に生産拠点を構えており、人件費はタイよりも中国の方が低かったが、タイは原材料の供給力が高く、また国内における消費量の増加も見込むことができたという。
PRIMAHAM (THAILAND) CO., LTD.の梅原 匠氏に話を伺った。

日本向け輸出品の製造でも高い安全性が強みに

食肉加工について、日本では口蹄疫の問題から、豚肉の輸入に関し日本政府から指定を受けた加熱処理施設で生産された調整品のみ認可されている。農林水産省の取り決めにより、アジアで施設が作れるのは中国とタイの2ヵ国のみだ。また鶏肉に関しても2004年の鳥インフルエンザ発生により、生鮮・冷凍鶏肉の禁輸措置が取られ、現在は加熱加工した調整品で一定の基準をクリアしたもののみ輸入が可能となっている。
「当社でも日本の農林水産省より家畜家禽類と偶蹄類加工の認可を取得し、これらのハードルをクリアしてきました。適正製造規範のGMP証明をはじめ、HACCP、ISO、FSSCなどの国際規格も取得しています」。
現在はポーク・チキンソーセージのほか、ロールキャベツ、トンカツ、ベーコン巻などの生産を行うが、鶏肉に比べ豚肉は餌から管理されたフルインテグレートのクオリティミートが提供できるローカルサプライヤーとして、CP社とメインで取引をしているという。輸出先の割合では日本向けが全体生産量の約95%を占めるため、原料の安全品質レベルにもこだわっている。

市場はアジアに限らずイスラム国での需要も注視

食品の輸送に関しては物流も重要なポイントとなる。現在生産している商品のほとんどは日本輸出用であるため冷蔵・冷凍設備が求められるほか、商品を荷詰めしたコンテナは衛生上一度閉めてしまうと開けることができず、コンテナトラックの混載が難しく費用面での負担が大きい。国境における輸送トラックの積み替えなど、陸路物流のインフラの重要度は高いという。
工場の稼働率は70〜80%と、まだ余裕がある。この余力を生かし、タイ国内と、そのほかのアジア諸国、ロシア、EUなどへの輸出も目標に定め、すでにシンガポールやフィリピンなど、数ヵ国で輸出認証も取得済みだ。
「日本への輸出には円安などの為替リスクがついてまわるため、リスクを最小限に抑えられる輸出先として、AEC発足で繋がるアセアン諸国は重要なマーケットになると考えています。タイ国内では、収入格差のある国ということ、当社工場の生産キャパシティが数百トンということもあり、ミドル〜アッパークラスの方にターゲットを絞った商品を生産販売、売上も順調に伸びてきています。
また、ヨーロッパでは和食のテイストを含む商品が好まれる傾向にあり、100%日本と同じ製品ではなく、ヨーロッパ向けに改良しています。
また、イスラム教のハラル認証に対する需要も感じてはいますが、工場を別で建てなければならないなど壁は高いのが現状です。一方で中東のドバイなどの高級ホテルでは豚肉需要があるという一面もあり、そこからスタートしていくことも検討しています」。

人件費がかけられる分日本ではできない加工を

約800名の従業員のうちの90%を女性が占める。中には創業当初から継続勤務している従業員も数名含まれるという。ハム、ベーコンの熟成には14日間を要するため、工場では24時間体制で監視を行い、エンジニアチームも常にメンテナンスを怠らない。
「製品づくりには熟練ワーカーの技が重要になってきます。もちろん大型機械を導入し、作業を自動化できれば楽ですが、日本よりも人件費がかけられる分、ひと手間かけた作業が生かされる商品を作っています。」

arayz nov 2014 tokushuタイ工場で取得した各種認証の証明証

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