ArayZオリジナル特集

タイの財産に日本の相続税が課税される「国際相続」とは

この記事はPDFでダウンロードできます

ダウンロードができない場合は、お手数ですが matsuoka@mediator.co.th までご連絡ください。

※入力いただいたメールアドレス宛に、次回配信分から定期ニュースレターを自動でお送りしております(解除可能)

国際相続における相続税

(1)タイに住んでいるにも関わらず、日本の相続税を課される納税義務者
①所得税法上の納税義務者
所得税法上は、日本国籍を有する個人でも、日本に住所が無いか、または1年以上継続してタイに居所(住んでいるところ)がある人は「日本の非居住者」となり、それ以外の「日本の居住者」が所得税の納税義務者となります。この判定においては「住所」=「生活の本拠地」が重要な要素となり、所得税法・相続税法上いずれも「日本国籍を有し、日本国内に生計を一にする親族がおり、また日本国内において職業、資産の有無等に照らして、その人が日本国内において継続して1年以上居住するものと推測するに足る事実があるとき」は、その人は日本国内に住所があるとみなしています。

②相続税法上の納税義務者
日本国籍を持っている相続人および被相続人がともに5年超継続して海外に住んでいると、相続人は「制限納税義務者」となりタイの財産に課税されません。上記の条件を満たさない場合、相続人は「居住無制限納税義務者」、または「非居住無制限納税義務者」に区分され、タイと日本の全ての財産が日本の相続税の課税対象となります。

(2)日本の相続税を課される財産の判定
「居住無制限納税義務者」および「非居住無制限納税義務者」は、日本・タイの財産両方に課税されるため財産の所在を判定する必要がありません。しかし、「制限納税義務者」は日本の財産のみに課税されるため、財産の所在地の判定を行う必要があります。
①生命保険
被保険者の死亡に伴い相続人が死亡保険金を受け取る場合は、相続または遺贈により相続人が取得した財産とみなされ、相続税の課税対象に含まれます。タイの生命保険会社との契約にもとづく保険金の場合、その保険契約に係る事務を行う営業所などが日本国内に所在するときは、死亡保険金は国内財産として扱われます。一方、当該契約に係る事務を取り扱う営業所などが日本国内にないときは、死亡保険金はタイの財産として扱われます。
したがって、被相続人がタイの保険会社と締結した生命保険契約に係る保険金は、そのタイの保険会社の保険契約に係る事務を取扱う営業所などが日本国内にない場合、その保険金はタイの財産に分類されます。

②退職金
被相続人の死亡により、相続人などが被相続人に代わって支給されるはずだった退職金を受け取ったときは、相続税法上の相続財産とみなされますが、相続税法上のみなし退職金の国内・国外判定は、その退職金を支払った会社の本店所在地で判断します。

③日本からタイへの送金
日本の親が日本にある現金を、国外電信送金によりタイに住んでいる子供に贈与する場合ですが、贈与は、贈与契約書がある場合にはその契約書面の日時で贈与したとみなされ、贈与契約書がない場合にはその贈与を行った時に成立したものとみなされます。そのため贈与契約書がない場合には日本国内において海外送金実行前に親から子への贈与契約が成立(国内財産)し、その贈与契約履行の目的で国外送金手続きが執られたということになります。
つまり、動産はその所在する場所によって内外判定を行いますが、国外送金によりタイに所在を移転した現金を贈与する場合は、贈与契約成立時に贈与者が日本国内に有していた金銭(国内財産)をタイの非居住者に贈与したとして、国内財産の贈与として取扱われ、受贈者である子の納税義務者区分に関わらず、日本の贈与税の課税対象となります。

(3)相続時の国外財産評価方法
①タイの不動産
日本の相続税法上、外国の土地評価については国税庁質疑応答事例において「土地については原則として、売買実例価額、地価の公示制度に基づく価格および鑑定評価額などを参酌して評価」すること、および、「課税上弊害がない限り、取得価額又は譲渡価額に時点修正するための合理的な価額変動率を乗じて評価」すること、「合理的な価額変動率は、公表されている諸外国における不動産に関する統計指標等を参考に求める」ことが述べられています。
つまり、タイの土地・家屋については日本の不動産取引における「実勢価格」での評価を行うよう日本の相続税法で定められているのです。日本の不動産は上述のように、土地の場合は「実勢価格」からかい離した「公示価格」から、さらに2割減額された「路線価方式」、建物の場合は「公示価格」からさらに3割減額された「固定資産税評価額」で評価されています。
しかし、タイを含むASEAN5ヵ国の2015年のGDPは平均5.5%と、「実勢価格」が不動産取得時点より大幅に上振れする可能性が高まっており、タイで所有している不動産を相続発生の時点で何の対策も立てずに日本の相続税法で評価すると、日本で不動産を所有している場合と比較して多額の納税となる可能性があるのです。

②タイの有価証券
上場株式については、日本国内の株式と同様に、その株式が海外で上場されている金融商品取引所が公表する課税時期の最終価格によって評価します。未上場のタイ法人の株式は、原則として「純資産価額方式」に準じて評価を行います。「純資産価額方式」での評価は上述した相続税評価額での評価となるため、「実勢価格」の高い不動産などの価額は株価に重大な影響を及ぼします。会社の買収時などにタイ法人の貸借対照表を純資産価額方式によって評価すると、以前に購入した不動産の価額が数倍になっており、株価が高騰して買収価額が吊り上げられるという事態に発展することもあります。
また、タイの未上場株式の評価にあたり「類似業種比準方式」に準じて評価をすることはできません。これは類似業種株価などのもととなる会社が、日本の金融証券取引所に上場している日本法人を対象にしており、タイ法人とは一般的に類似性を有していないとされているからです。
通常「類似業種比準方式」での評価は「純資産価額方式」での評価より低くなります。会社の規模にかかわらず「純資産価額方式」でしか評価できないということは、タイ法人の株価は日本法人と比較するとかなり高額になってしまうことになります。
なお、日本の財産評価基本通達では、少数株主が所有している未上場株式の評価については「配当還元方式」で評価することになっていますが、少数株主が所有しているタイの未上場株式の評価について「配当還元方式」を用いることができるかについて、国税庁の判断は明確にされていません。
ただし、国外財産についても原則、財産評価基本通達に従って評価し、少数株主が所有する株式評価は議決権ではなく、配当金をもとにして評価を行うという「配当還元方式」の趣旨からすると、タイの未上場株式の評価にあたっても「配当還元方式」を用いることができると思われます。

【相続に関する用語】
●相続税の基礎控除
相続税は、財産を相続した全ての人にかかるのではなく、課税される相続財産の額が相続税の「基礎控除」を超える場合にだけかかります。相続財産が3,000万円以下の場合、法定相続人の人数などにかかわらず、相続税の納税・申告の必要はありません。現在の相続税の基礎控除の額は、「3,000万円と600万円に法定相続人を乗じた金額の合計額」です。
●実勢価額
実勢価格とは、実際の取引が成立する価格のことです。「不動産の時価」のことで、売り手と買い手の間で需要と供給が釣り合う価格をいいます。
●公示価額
公示価額は、地価公示法に基づいて、毎年1月1日における標準地を選定して「土地取引のバロメーター」を判定し公示するもので、公共事業用地の取得価格の算定などの基準とされています。
●路線価方式(相続税法上の評価額)
路線価とは相続税の計算をする上で課税基準となる土地の「単価」の事です。道路に面する標準的な宅地の1㎡当たりの価額であり、国税庁が毎年算定しています。「公示価額の8割」程度となります。
●倍率方式(相続税法上の評価額)
倍率方式とは、固定資産税評価額の評価倍率表に示してある倍率を乗じて、土地評価額とする方式です。倍率方式は、路線価が定められていない地域の評価方法です。
●純資産価額方式
純資産価額方式は、会社の株式の価値を、仮に会社が解散した場合に、その会社の株主に分配されるはずの正味の財産価値(=時価)で評価しようとするものです。純資産価額方式の計算方法は、まず、課税時期における会社が所有する資産を時価により評価した価額の合計額(総資産価額)から、
課税時期における負債を時価により評価した価額の合計額(総負債価額)を差し引いて、その差額が純資産価額となります。
この記事はPDFでダウンロードできます

ダウンロードができない場合は、お手数ですが matsuoka@mediator.co.th までご連絡ください。

※入力いただいたメールアドレス宛に、次回配信分から定期ニュースレターを自動でお送りしております(解除可能)

gototop