知財の基礎知識から、タイを含むアセアン諸国における知財制度の現況を通じて、知的財産を経営に生かす方法について、ジェトロ・バンコク事務所知的財産部の高田元樹部長、澤井容子氏、金森晃宏氏に解説してもらった。
知的財産の種類
知的財産制度は、人間の知的創造活動によって創作されたアイディア、ネーミングなどを創作した人だけが独占的に実施できる権利を与えることでそのアイディア、ネーミングなどを財産として保護するという制度である。例えば、新製品を開発した場合にその新製品に用いられた新しい技術(発明)は知的財産の一つである。この技術について特許権を取得すれば、自社だけがその技術を利用することができ、他人はその技術を利用することができない。以下、知的財産の代表的なものを簡単に説明する。
【特許】
特許制度は、新しい技術に関するアイディアつまり発明を保護するための制度で、各国の特許庁に特許出願し、審査において所定の方式要件及び実体要件(発明が新しいものか、など)を満たしていると判断されれば特許権が発生する。権利期間は日本やタイをはじめとして、出願日から20年としている国が多い。
【実用新案(小特許)】
実用新案制度は、発明というほどではないちょっとした改良などの考案を保護するための制度で、各国の特許庁に実用新案登録出願し、所定の要件を満たしていると判断されれば実用新案権(小特許権)が発生する。日本と同様に実体要件の審査を行わずに実用新案登録する国も多い。また、実用新案権の権利期間は特許権に比べて短い国が多い。
【意匠】
意匠制度は、デザインを保護するための制度で、各国の特許庁に意匠登録出願し、所定の要件を満たしていると判断されれば意匠権が発生する。フィリピンのように実体要件審査せずに登録する国もあるが、タイや日本のように実体審査を行う国もある。また、意匠権の権利期間は国によって色々であるが、例えばタイでは出願日から10年、マレーシアでは出願日から25年である。
【商標】
商標制度は、自社の商品・サービスを示すためのマーク、つまり商標を保護するための制度で、商品・サービスを販売・提供する企業(事業者)の業務における信用を保護して産業の発達に貢献するとともに、商品、サービスを購入・利用する消費者を保護しようというもの。各国の特許庁などに商標登録出願し、所定の方式要件および実体要件を満たしていると判断されれば商標権が発生する。
権利期間は更新が可能であり、更新を続ければ永遠に同じ商標権を使用することができる。
【著作権】
著作権制度は、思想や感情を創作的に表現した文芸、学術、美術、音楽といった著作物などを保護するための制度。
著作物が創作された時から自動的に著作権が発生し、原則として著作者の死後50年間権利が保護される。
「〝特許権〞、〝実用新案権〞、〝意匠権〞、〝商標権〞の4つを産業財産権といい、これらの産業財産権は出願を行い、登録されることで初めて権利が発生することになりますが、著作権は著作物が誕生した瞬間に発生します」(高田氏)。
これらの知的財産制度の下では、権利を取得していれば自社の技術・商標などを模倣している模倣品に対して何らかのアクションを取ることが可能である。しかしながら権利を取得していなければ、模倣品に対して何のアクションも取ることができず、さらに他人が同一の内容について権利を取得してしまうリスクなども発生する。この場合、自己の製品が他人の権利を侵害してしまうという事態になるので設計変更、商品名の変更などが必要となる。
「権利の取得には費用も時間もかかりますので、その国における事業展開を考慮しつつ、費用対効果を精査して権利を取得しないという判断をすることもあるかとは思います。ただ、知財について争いが生じた場合には権利の取得よりもはるかに多くの費用、時間がかかりますので、事業活動を円滑に行うためには、自社製品の核となる技術や商品名などについて予め調査を行うとともに、権利取得されることをお勧めします」(金森氏)。
アセアン知的財産行動計画2011-2015
- 迅速・的確・利用可能性の高い知的財産サービスを提供すべく、バランスの取れた知財システムの構築
15年までに平均6ヵ月で商標登録を可能にする( 異議申立などがない場合) など - アセアン加盟国の国際知的財産保護制度の参加
15年までにマドリッドプロトコル(※1)、7ヵ国以上のハーグ協定(※2)、PCT(※3)などの国際条約・協定への加入 など - 知的財産の創造・意識向上・活用の体系的な促進
技術移転・商業化の意識向上、中小企業の知的財産活用強化 など - 国際的なIPコミュニティへの活発な参加および各種機関との連携強化
日本国特許庁を含むダイアログパートナーとの協力強化など - アセアン地域の各知的財産庁の人的・組織的な能力向上
特許・商標審査官、能力の強化を域内各国のニーズ調査を踏まえ体系的に実施 など
アセアン知財戦略行動計画2016-2025(案)
- 知財庁の強化と地域における知財インフラの構築によるより強固なアセアン知財制度の発展
特許、商標及び意匠に関するサービスの向上 など - アセアン経済共同体の拡大に貢献できる地域的知財プラットフォーム及びインフラの発展
オンラインサービスへの接続を介したアセアン加盟国のサービス提供の改善 など - アセアン知財エコシステムの拡大と包括的な発展
アセアン内外におけるステークホルダーなどとの関係の強化など - 特に地理的表示と伝統的知識についての、資産創出と商業化を促進するための地域的なメカニズムの強化
知財の保護と活用を促進するための知財に対する意識及び敬意を改善など
※出典:ジェトロ、特許庁作成資料
マドリッドプロトコル(標章の国際登録に関するマドリッド協定議定書)は、商標についてWIPO国際事務局が管理する国際登録簿に国際登録を受けることにより、指定締約国においてその保護を確保できることを内容とする条約。
※2 ハーグ協定
意匠の国際登録に関するハーグ協定のジュネーブ改正協定は、WIPO国際事務局が管理する意匠登録手続の簡素化と経費節減を目的とした国際条約であり、意匠について、一つの国際出願手続により国際登録簿に国際登録を受けることによって、複数の指定締約国における保護を一括で可能とするもの。
※3 PCT
特許協力条約(PCT:Patent Cooperation Treaty)に基づく国際出願とは、ひとつの出願願書を条約に従って提出することによって、全てのPCT加盟国に同時に出願したことと同じ効果を与える出願制度。
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