ArayZオリジナル特集

タイ進出製造業の新たな展開 医療機器業界参入のヒント

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日本の優れた医療技術をアジアへタイで内視鏡外科技術を普及 「日メコン医療協力」

arayz nov 2015

日本がタイ、カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナムとの間でメコン地域諸国の繁栄と発展に寄与し、アセアン共同体の構築に貢献する「日メコン協力」の取り組みが活発だ。タイにおける医療関連の協力プロジェクトについて、医療内視鏡機器販売を行うOlympus(Thailand) Co., Ltd.の山田貴陽Division Managerに話を伺った。

arayz nov 2015
Olympus (Thailand) Co., Ltd.
山田貴陽 Division Manager

2015年2月、JICAの14年度第1回公示「開発途上国の社会・経済開発のための民間技術普及促進事業」(14年8月28日公示分)で12件のプロジェクトが採択案件として選定された。
そのひとつが、オリンパス社の「アドバンス内視鏡外科手術普及促進事業」だ。タイ中核国立病院関係者に対し、オリンパス社と大分大学が共同で日本式のアドバンス内視鏡外科手術に係る手技教育を実施。現地医師100名の育成を図る。
この事業では15年度から2年間、タイの医師に対して内視鏡外科手術の指導を行う。具体的には、大分大学医学部消化器・小児外科学講座の猪股雅史教授を中心とした専門チームが、タイへ医師を5回派遣する。研修指導施設としてはタイ医療の中核を担うマヒドン大学シリラート病院と、チュラロンコン大学附属病院が選ばれた。また日本でも研修指導を行う予定だ。
「新興国の急速な経済発展に伴い、『早期診断』、『低侵襲治療』の需要が大きくなっていることから、オリンパスでは新興国の医療水準向上に貢献する活動を推進しています」。
大分大学で学長を務めるのは、国際内視鏡外科連盟・日本内視鏡外科学会理事長でもある、世界的権威の北野正剛氏だ。「世界をリードする内視鏡外科手術」をミッションに掲げ、新たな手技の進歩やトレーニングコースの実施、アジア太平洋地区への展開に注力している。

内視鏡がもたらすメコン医療の発展

arayz nov 2015

内視鏡の歴史は1950年代に開発された胃カメラに始まるという。当初は「視る」ための機器だったが、現在では「病変をさまざまな角度から診て、治療する」機器へとその役割を発展させた。
多くの医療機器や診断・治療方法が欧米を中心に発展してきた中、消化器内視鏡に関しては日本がリードしており、そのトップシェアを占めているのがオリンパス社製品だ。
内視鏡を使用することで、大腸がんなど消化器系疾病の早期発見率は向上、早期治療を行うことで完治する確率も上がるという。また、開腹手術を行わない内視鏡手術は患者の負担が小さく、手術時間も短いため、QOL(Quality of Life:生活の質)を向上させる「低侵襲治療」として医師からも大きく期待されている。
「日本は内視鏡を学問として逸早く取り入れ、現在では消化器内科、外科と幅広い分野で、安全な手技の研究、標準化や普及について検討され続けています。この歴史が、世界でもトップレベルの消化器内視鏡医の育成制度を整備させ、日本が内視鏡の発展の中心的役割を果たしてきた背景にあるのではないかと思います」。
一方、タイでも医師の内視鏡手技トレーニングは行われているが、標準化されておらず、各大学病院などで独自に実施されているという。
「最先端の機器が揃っていても、それを扱える医師がいなくては意味がありません。当社はお客様に安心して製品を使ってもらえる環境作りが責務であると考え、今回のJICA事業では、まず100名のタイ人外科医育成支援を目的として掲げています。機器をしっかり使いこなせる医師の数が増えれば次世代のタイ人若手医師の、さらにはラオスやカンボジア、ミャンマーなど周辺国医師の育成にも繋がるはずです」。急速に高齢化が進むタイだが、「予防医療」の意識はまだ低く、病院に行くのは身体に異常を感じてからというのが通常だ。異常の原因ががんであった場合は既に進行してしまっている可能性が高い。進行がんの治療には最先端の医療技術が求められるほか、手術自体の難易度も上がる。予防医療が浸透する可能性を持った土壌があるタイでは、積極的な内視鏡技術の普及が期待されている。

JCC医薬・医療分科会が活動開始

盤谷日本人商工会議所(JCC)は2014年に設立60周年を迎えた世界最大規模の在外日本人商工会議所で、会員数は1552社(14年4月末現在)にのぼる。近年の所得水準の向上と人口の高齢化の進展により、タイにおける医療・健康産業へのニーズは今後ますますの増加が予想されることから、15年2月、JCC化学品部会の下に「医薬・医療分科会」が発足された。オリンパスタイランド社の山田氏は、同分科会の副会長も務めている。
JCC化学品部会医薬・医療分科会では、①医薬品・医療機器分野の法規制、市場の状況などに関する情報交換、②上記分野に係る要望事項のとりまとめ、③会員間連携による新たなビジネス機会の創出、④アセアンへの新規参入を検討する企業などへの情報提供―
などを行っている。
「分科会では在タイ日本国大使館、JETRO、JICAと連携して、タイの関係団体と意見交換を行っています。
タイでは医薬と医療機器、そして、その他の関係会社の方々と連携して活動に取り組んでいます。がんひとつを見てみても、健康、予防、術中、術後と医薬と医療機器がオーバーラップする場面が多く、シナジーが存分にあると考えています。」
企業が単体で、日本とは異なる制度・ルールのもと、国外の医療業界で展開していくハードルは高い。日本の公的機関と医薬・医療機器関連企業が一丸となってタイ政府や関連機関、団体へ働きかけることで、その影響力は強さを増す。また、これまでタイ医療業界への参入は大手がメインであったが、分科会という窓口ができたことで、中小企業のタイ進出のハードルを下げる役割も担っている。
「今後はIT関連の企業とも連携できればと考えており、電子カルテやe-ラーニング、病院間での患者情報共有やクラウド化など、医療とITの可能性は広がっています。ただ、『人の命』が関わる業界なだけに、慎重に取り組んでいます。分科会幹事会社の方々とは、『タイでの活動成果をアセアンに展開』が共通の考えとしてあり、All Japanで日本の医療サービスの仕組みがタイからアセアンに拡がり、アセアンで暮らす皆さんのQOLに貢献できれば、これほど嬉しいことはありません」。

「アドバンス内視鏡外科手術」の手技教育内容とは

  • タイでのトレーニング
    1回当たり12~18名のタイ人外科医が受講。大分大学から指導医師が4名程派遣され、2日間にわたり講義のほか、ドライラボ(樹脂などの模型)やカダバー(実習用解剖体)などによる実践的なトレーニングを行う。
  • 日本でのトレーニング
    タイで将来、指導的立場をとる若手外科医10名程度を招聘し、5日間にわたり講義やバーチャル・シュミレータートレーニング、ウェットラボ(鶏肉など)トレーニング、手術見学など実施を計画中。

アドバンス内視鏡外科手術普及促進事業の研修

9月16、17日の2日間、チュラロンコン大学附属病院で「アドバンス内視鏡外科手術普及促進事業」の第2回目となる研修が開催され、基礎的な生理学や医療機器の扱い方などの講義と、ウェットラボやカダバーによる実践的なトレーニングが行われた。前出の猪股教授は、「内視鏡を使った診断や手術は世界中に普及していますが、技術は日本がトップレベルです。また、世界で高いシェアを誇るオリンパス社の製品も、トップクラスの医療機器です。タイは〝食の欧米化〟が進んだことで、大腸がんを羅患する患者が増加傾向にあると聞いています。このプロジェクトを通じて、適切に対処できるようタイ人医師に吸収してほしいです」とコメント。
大分大から研修指導へ来タイした医師らは、タイ人医師の熱心に研修に取り組む姿勢に感銘を受けていた。

arayz nov 2015
大分大学医学部消化器・小児外科学講座の猪股雅史教授

arayz nov 2015チュラロンコン大学附属病院内にある研修施設での講義の様子

arayz nov 2015研修施設と機器を使った実践的なトレーニングの様子

オリンパス社製3D内視鏡システム
外科手術用3D内視鏡システムは対象臓器の立体観察が可能で、また、ビデオスコープの先端には湾曲機能を搭載している。医療現場からの要望に応え、開腹手術のように観察対象が処置できることを目指して開発されたシステム。対象部位の正面視だけでなく、裏側まで、片手操作で簡便に観察を可能にし、手術の精度向上と時間短縮が期待される。

Olympus (Thailand) Co., Ltd.
Medical, Life Science and Industrial Products Division
33/4 The Ninth Tower, Tower A, 32nd Floor,
Rama 9 Road, Huay Kwang, Bangkok 10310
02-000-7700
http://www.olympus.co.th

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