2015.12月号

ArayZオリジナル特集

“中進国の罠”からの脱却を目指すタイ 2016年アジアビジネスの中心になるのはどこか

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arayz dec 2015 tokushu

2015年、「中所得国の罠」から脱出するためにタイはさまざまな政策を打ち出した。“中所得国”“中進国”とは、国連および世界銀行の定義に従えば、国民総所得(GNI)がそれぞれ中所得国で1,986ドル以上-4,125ドル以下、中進国で4,126ドル以上-7,184ドル以下にある国々を指す。藤岡氏の表現を借りると、積極的な外資誘致で物質的に成長してきたタイは今、大人になるための内面を育てていかなければならない時にきている。
この1年、タイ・アセアンで起きた動きを振り返ると共に、2016年、日系企業はどこを目指していけばよいのか。タイ国立チュラロンコン大学サシン経営管理大学院サシン日本センターの藤岡資正所長からのタイ、日系企業に向けたメッセージとは。
チュラロンコン大学サシン経営管理大学院サシン日本センター
所長 藤岡資正
英国オックスフォード大学サイード経営管理大学院博士課程修了(経営哲学博士)。
米国ノースウエスタン大学ケロッグ経営大学院客員研究員、名古屋商科大学院客員教授、早稲田大学大学院客員准教授、上場日系企業数社のアドバイザーを兼任。
姫路市観光大使。

タイの2015年はBOIの刷新から始まった

日本企業の現在のアジア展開を語るとき、製造業に関しては日系進出企業の摺り合せ型モノづくりの結節点として、東南アジア随一の厚みを有す産業集積が形成されているタイと、近隣諸国を含めたメコン地域との関わりを押さえておく必要があります。
これまで、タイは日本をはじめとする企業の海外直接投資(FDI)を戦略的に受け入れることで、要素駆動型から効率駆動型経済への移行を果たしていました。しかし、ここからもう1ステップ上のイノベーション駆動型経済へと経済構造のアップグレードを図る過程では、労働集約的な優位性に基づいた産業構造を維持していくのみでは不十分です。
高付加価値型産業の創造という新たな次元での経済成長を模索するとともに、所得格差の是正、高度人材育成、高齢化社会や労働力不足、そして、汚職問題や政治の不安定など社会構造上の課題への対応が不可避となります。こうした中、中進国からのさらなる成長を見据え、タイ投資委員会(BOI)は2014年12月に新投資奨励制度を発表し、相次ぎ投資家向け説明会を開催しました。主な変更点に挙げられるのが、ゾーン制の廃止です。1987年から導入されたゾーン制は元々、地域格差解消を目的としており、タイ国内を1から3までの3つのゾーンに分類し、バンコクより遠い地域に進出する企業ほど多くの恩典を受けられるのがその特徴でした。
新投資奨励策は、基本恩典と追加恩典の2種類の投資恩典からなっています。タイ政府は医療(メディカル)ツーリズム、次世代自動車製品開発、バイオテクノロジーなどに加え、長期的にはロボット工学、航空・物流、バイオ燃料、医療ハブの創設など高付加価値型の産業を育成するとの方針の下、これら分野で高い技術をもつ企業の誘致に舵を切り始めています。当然、タイ独自でこれらを全て実現していくというのは至難の業となるので、日本などの先進諸国や国境を共有するCLMV(カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム)諸国と協力し、相互補完的な関係を築きながら、戦略的に産業構造の転換を図っていくことが必要です。
一方で、企業レベルの活動に目を転じると、ここ数年のメコン域内の物理的、制度的なコネクティビティの高まりは域内のサプライチェーンの機動性向上に貢献、タイ+1戦略の実現可能性を現実的なものとし、リージョナル戦略を落とし込んでいく際の方法論として注目を集めています。こうした潜在性を引き出し、企業レベルでAECの恩恵を活用して
いくには、メコン大での戦略的な括りで事業を構想をしていくべきです。そのためには、タイとメコン諸国との互恵的かつ包括的な成長が、地域に根付いた企業活動が政策および企業実践の場というマクロ・ミクロの往復運動によって担保されなくてはなりません。つまり、産業の高度化にかかわる政策を推進していきながらも、これまでタイ国で行ってき
た製造プロセスのうち、労働集約的な生産ブロックをCLMV諸国に移管することで、製造コストを下げていくと同時に、近隣諸国の工業化に対する貢献をしていくのです。
タイ+1は「チャイナ+1」のように政治的リスクを回避して、中国から他国に生産拠点を移す動きとは大きく異なり、タイに拠点を置きつつ、周辺国に製造過程の一部を移管する動きで、タイの整備されたインフラ(インフラボーナス)と周辺国の低賃金労働力(裁定戦略)を掛け合わせたものといえます(図表1)。

 

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これまでアイデア、コンセプトレベルで行われていたタイ+1の議論を、企業実践の場に落とし込んでいくという経営的なアプローチが求められます(図表2)。政策面では、タイを基点とした企業レベルでの事業展開を支援するため、クラスター型経済開発区政策やCLMV諸国との国境地帯で特別経済開発区を設置し投資を促進することになるでしょう。

 

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