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“中進国の罠”からの脱却を目指すタイ 2016年アジアビジネスの中心になるのはどこか

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2016年、タイと周辺国の関係性は

AECやタイ+1の動きに伴い、タイと周辺国とのコネクティビティーの重要度はますます増すばかりです。AECでまず期待されているひとつに、通関の標準化があります。アセアン域内の通関書類、手続きの統一が実現すれば、企業は通関に関わる業務をより簡単に域内共通のものとしてマニュアル化でき、域内共通であればこそ担当者の育成も一括して行うことができます。標準化によって、タイでは特にGMS域内のクロスボーダー物流の活発化が予想されますが、タイ政府が周辺国と良好な関係を築けるかどうかもポイントになるでしょう。周辺国がタイとの関係にメリットを感じることができなければ、域内での経済活動の障壁は上がります。そうなれば、GMSに対するタイの求心力は弱まることになり、経済成長の鈍化に繋がり兼ねません。互いにWin-Winな関係構築が必要不可欠です。

アセアンは世界的にも、経済活動の駆け引きの主戦場として、もっとも注目されている市場のひとつだ。タイと在タイ日系企業は今後、どのような展開を求められているのだろうかー。

昨今、FTA(自由貿易協定)、EPA(経済連携協定)が活発化しており、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)やRCEP(東アジア地域包括的経済連携)など、さまざまなワードが飛び交っています。タイがTPPに加盟するのかどうかが焦点となっていますが、もしもシンガポール、ブルネイ、ベトナム、マレーシアに加え、タイまでがTPPに加盟することになれば、AECの求心力が弱まるという懸念もあります。タイは少子高齢化や政治の不安定という社会構造的な問題に加えて、労働集約的な産業を近隣諸国へ移管しつつも、既存の産業集積を活かす形で高付加価値型経済への移行という、経済構造上の課題に取り組んでいかなくてはなりません。
これら難題に立ち向かうためには、近隣諸国と互恵的な協力体制を構築し、メコン大での発展を志向していかなくてはなりません。FTAをめぐる世界各国の駆け引きの場として、この地域をめぐる各国の動きを注視していくべきだと思います。日本でも大きな論争を巻き起こしたTPPの前身ともいえるP4(ブルネイ、チリ、ニュージーランド、シンガポール)という国々は、ご存知のように対外経済依存度が高く、貿易の自由化に対しては積極的な立場を表明していました。中でも、シンガポールはアセアンでの自由貿易協定を重視してきたという経緯があります。
また、TPPが難しいのは、必ずしも国民全体の経済厚生が優先されるわけではないという点です。これは、政治経済学という分野で議論がなされてきましたが、ごく簡単に言うと、自由貿易協定に関する議論は、単純に多数派の意見が優先されるわけではなく、少数派の利益が優先されることが往々にしてあるということです。これは、集合行為問題(collective action problem)と呼ばれますが、誤解を恐れずに簡潔に説明をすると、TPPによる利益は広く薄く享受されるのに対して、損失は少数の利害関係者に集中するため、集団の規模が小さい方がまとまりやすく、ロビー活動が行われやすい傾向にありま
す。つまり、国民全体の経済厚生よりも、特に選挙が近くなってくると、少数の特定の集団の利益が優先されやすくなるということです。いずれにしても、今後タイがどのような立場を表明していくのかは、タイ国内の政治経済的な問題に加えて、アセアンの求心力と遠心力の問題、そしてカンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナムとの関係を考慮に入れながら慎重に議論がなされていくものと思われます。
一方で企業レベルでは、在タイ企業としては、狙うべき市場の空間的範囲を明確にし、取るべき時間軸を想定しなければなりません。今話題の経済協定に加盟する国々の経済活動を地図上で結んでいくと、世界は複雑に絡み合っていることがわかります。これはその複雑さから、スパゲティボール現象とも呼ばれます。こうした複雑な関係性を分析の射程に入れながら、リージョナル戦略を構想していく必要があります。また、各国の経済政策、インフラ整備状況、政治体制のあり方が与える経済活動への影響など、リージョナル戦略を実践していくには従来の延長線上で事業を構想していくだけでは不十分です。 経営者にとっては、メコン地域での戦略を構想していく上での難易度が高まっていくという意味で厳しい環境ですが、逆に上手く戦略の舵取りをしていくことができれば、多くの企業にとって非常に魅力的で戦略的に重要な地域としてその潜在性は高く評価されるものと考えています。

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