ArayZオリジナル特集

“中進国の罠”からの脱却を目指すタイ 2016年アジアビジネスの中心になるのはどこか

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対タイ投資状況と2016年の変化予想

2015年に入り、日系企業の対タイ投資額、件数はともに減少しています。
その要因は簡単に思いつくだけでいくつかありますが、投資額という意味では、大企業の投資が一段落して、中小企業が増えているということ、また件数という意味では、2014年の制度変更前に駆け込み申請が多かったことなどが考えられます(図表4)。

 

arayz dec 2015 tokushu

 

件数に関しては長期的に見れば徐々に回復してくるものと思われますが、中小企業と非製造業の件数増加が予想されるため、投資額についてはむしろ小規模なものが増え、大幅な増加は見込めないのではないかと思います。ベトナムやマレーシアへ進出する日系企業が増えてきており、日系企業がアセアンにおけるビジネスモデルを考えた時、どの市場を狙っていくのか、その事業戦略による行動の変化が現れ始めています。ひとつの前提として、日本と欧州の海外展開の手法の違いを簡単に説明しましょう。日系企業が日本で培った、日本式の手法を現地に浸透させることに注力するのに対し、欧州はローカル人材を活用し、その土地にあった手法に落とし込みローカライズしていきます。これはどちらが良い悪いという議論ではなく、展開する事業と企業が追求する国際経営の戦略フレームによって変わってくるものだと考えています。
例えば、日本が得意とする自動車産業は、日本が生み出したグローバルな基準をベースに、グローバルな単位での標準化や規格化、集約のメリットを活かして地域単位で規模の経済性を追求していくという戦略展開が一般的ですが、食品産業ではそれぞれの地域に合った味や流通チャネルや規制への対応など、現地適応に対する圧力に応じる形でのマルチドメスティックな事業展開がとられる傾向があります。

タイ国内の中核都市を見る

タイ国内に目を向けてみると、中核都市やバンコクの衛星都市が成長してきています。バンコクと中核都市、衛星都市をどう結び付けていくかが、タイが今後も経済成長を続ける鍵となるでしょう。タイはバンコク首都圏に一極集中して発展してきましたが、最近になって、バンコク近郊やバンコク以外の地域での開発が行われ、都市部のみならず中核都
市や衛星都市が生まれつつあります。これをメガ・シティー型の成長からメニーシティーズ型の発展という言い方をしていますが、バンコクのみならず、タイ国内の衛星都市や近隣諸国の首都圏などを射程に入れた戦略構想や事業活動が日系企業、タイ企業において展開されるようになっています。しかし、まだ都市間の結び付きが弱いという課題があり、鉄道、道路、バスなどの輸送インフラを今後どのように強化し、結び付けていけるかが、こうした発展を点から線へ、そして線から面へと展開していく際のポイントになります。さらに、各都市と周辺国の都市の連結性が高まることで、円滑にヒト・モノが相互に流れ、衛星都市の経済圏としての発展は加速するでしょう。経済発展には〝ヒトが動く〞ということが非常に有効です。
日系企業としては、この交流の仕組みに貢献できること、地域社会へ対して日本企業としてのソリューションを提供していくという姿勢が重要になってくると思います。モノを売るために進出をするのではなく、ソリューションを提供するために事業を進めるという切り替えが必要であり、そうした日本企業としての美徳こそが〝持続的〞な競争優位の源泉として、タイ+CLMVという地域レベルでの発展に資するということに繋がるのではないかと考えています。

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メコン研究所にて、神姫バスの長尾 真社長(右から5番目)と同研究所のワチャラス所長(その左隣)

ひとつの例として、兵庫県の神姫バスグループが参画している、タイ東北部コンケン県のバス運行プロジェクトがあります。手織りシルクで有名なコンケン県は、1964年に東北部で最初に設立された唯一の総合大学であるコンケン大学を擁する学園都市であり、大学の近くはタイ人のみならず、近隣諸国から集まってきた若者で賑わっています。バンコクからは飛行機や長距離バスなどでアクセスできるのですが、県内を巡る交通機関が未発達で、非常に限られた交通手段によって、渋滞問題が深刻になってきています。観光客をせっかく呼び込んでも、県内を巡る手段がなければ観光地は潤っていきません。
また、コンケン大学にはたくさんの学生がいますが、市街地と大学を行き来する手段がありません。移動手段さえあればヒトが動き、生産性が上がり、経済活動の活性化にも繋がるのですが、それができないことでの経済損失は測りしれません。そこで神姫バスは、市街地を走る巡回バスの路線設定などを提案し、パイロット・スタディを行いながら、いかにして地域に貢献できるかを検討しています。採算という観点からは、すぐに結果が出るものではないのかもしれません。それでも、メコン地域に対して日本企業としてできることを、限られた経営資源の中それが許す範囲で、真摯に取り組んでいく。こうした姿勢(地域創生、未来共生という理念)が、日本企業の価値を上げる事に繋がり、日本のプレゼンスを高めることにも繋がるのです。私の力は微々たるものですが、それでもこうしたビジョンとミッションに共鳴し、できる限りのことをご支援していきたいと考えています。読者の皆様で、日本のプレゼンスを高めるために協力をしたいという方がいれば、いつでもお声がけ下さい。
目的地の途中地点に立ち寄れるバス移動には、出発地と目的地を繋ぐだけの高速鉄道や飛行機とは異なる利点を活かした、さまざまな効果を地域観光に生み出すことが期待できます。JICAが取り組んでいる〝道の駅〞プロジェクトなどと観光バス路線などが有機的に結びつき、新たなヒトとヒトとの繋がりが創出されることで、地域の皆様に新たな市場との接点を創造できればというのが目標です。飛行機や列車の移動では、ただ通りすぎていた利用者が、道の駅やサービスステーションの設置によって、飲食利用や特産品を現地で消費する機会を提供し、出発地と目的地の途中の住民にとっても恩恵が生まれるような取り組みを促進していきたいと思います。
観光と第1次産業は関係を持たせやすいものです。地域密着型のビジネスでは色々なものが結び付き、成長していきます。観光客と地域の人たちがお互いにWin-Winとなれる形が理想的ですし、採算性が確かではない中でも旗をあげて一生懸命動く姿をみせていくことによって、それに共鳴し、共に新たな価値の創出する(価値共創)というイノベーションが生まれてくるのだと信じています。現状、コンケン大学を卒業した学生のほとんどは職を求め、バンコクに出て行ってしまっているのですが、コンケンが中核都市として、発展
すれば現地での雇用も増え、そのままコンケンで生活する人が増加し、地域活性化に繋がっていくのではないでしょうか。
神姫バスのプロジェクトは長期的なプランで考えており、まずはコンケンの人たちに〝兵庫県姫路市から来た日本のバス会社である〞ということ、そして、コンケンでの取り組みを知ってもらうことに注力しています。〝日本ブランド〞というブランディングを行い、人々の関心を集めることができれば、その情報は自ずと拡散されていきます。草の根レベ
ルの地道な活動にはなりますが、姫路という一地方に親近感を持っていただくことで、やがて購買力を付けてくるであろう地方都市の中間層の皆様に、東京や大阪だけでなく、世界遺産である姫路城を観に姫路まで来ていただく。そして、但馬や城之崎まで足を運んでいただき、日本の地方創生へも結び付けていきたいと考えています。先ずは何よりも、タイでのプレゼンスを上げていくことが優先です。このプロジェクトが成功すれば、CLMVでの横展開も視野に入れていくことができます。
姫路市のみならず、播磨の魅力を全国に発信するために、播磨地域の7市8町が対等協力の立場で団結し、2012年5月に「播磨広域連携協議会」を発足。現在は播磨全域の22市町が団結し、神姫バスグループを核として、姫路市および兵庫県の皆様のお力を借りながら、地域課題解決に一丸となって取り組んでいます。観光クラスターを形成することで、広域観光を推進、日本国内外に向けてPRを行っています。近年の観光促進活動によって、姫路や城之崎へのタイ人観光客も大幅に増えたと聞きました。
企業1社でできることは限られていますし、そんな余裕はないという企業も多いと思います。しかし、私たちは必ずこうした活動が日本国の日本人の価値を高めていくことに繋がると信じて、関係各所の皆様と共にまさに、チームジャパンで取り組んでいきたいと考えています。

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