ArayZオリジナル特集

社会課題からビジネス機会を創出する CSV事業戦略

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タイが抱える交通課題

タイにおける交通事故死者数は、世界でも1位2位を争うほどに多い。死因の過半数を占めているのはバイクによる事故死で、飲酒による事故死の割合は突出して多いわけではないという。
「交通事故死を原因とするタイの経済損失はGDPの約3%にも値すると言われていて、相当な損失であることから、深刻な社会課題となっています。交通事故が多い理由には、事故が発生する『事前・衝突時・事後』という時間軸に、それぞれ『利用者・乗り物・インフラ(道路・環境)』という関連対象を掛け合わせることで9つのカテゴリ別要因にまとめることができます(図表3)。

これらの要因を解決するためのサービスや商品として、安全、医療、運転サポートなど、さまざまなものやサービスが考えられます。例えば、居眠り運転を防止するための飲料やガムなども課題解決方法のひとつです。交通事故というと車両メーカー、交通行政の仕事だと思い込んでしまいがちですが、構造を可視化して視野を広げれば取り得る解決策は多様にあるということです」。

日本も1960年代は、人口10万人あたりの交通事故死者数が約15名/年であり、現在の東南アジア諸国並であった。そこで行政が主導となり、交通インフラを整え、次に交通法規の整備・徹底、交通安全教育の実施を行うことで、利用者の意識を向上させた。さらにエアバッグの搭載など、より安全な車体の開発を企業や消費者が負担することで実現、2000年代に入ってからは自動車1万台に対する交通事故死者数を1人程度にまで減少させた。なお、この間にも自動車保有率は年々上昇している。
「これは日本での例であって、新興国でも同じソリューションが当てはまるとは限りません。事実、エアバック搭載の自動車はすでに走っていますし、複数の解決策が同時進行で進められる、あるいは独自の解決モデルが発展する可能性も考えられます」。

解決を目指す社会課題は2ステップで捉える

社会課題を起点とする新規事業創出において、検討ステップは大きく二つに分けられる。
ステップの1つ目、解決に挑む〝社会課題の探索〟では、着目すべき社会課題を「インパクト」と「緊急度」の両面から評価し、解決に挑むべき社会課題の特定を実施する(図表4)。

そしてステップの2つ目では、それに対する〝提供価値の探索〟として、解決を目指す社会課題の因果関係を踏まえ、大きな社会課題の解決のきっかけとなるレバレッジポイントを特定する。
「例えば、栄養不足の子供が多数存在する地域があったとして、『栄養不足の子供が多数存在すること』を課題Aとすると、その解決策として給食を提供することで、学校に通う子供の数が増加し、子供の栄養状態が改善するという直接的効果が得られます。
学校に通う子供が増えると子供が授業を受けるようになり、教育水準が向上するという間接的効果が生まれますね。さらには、子供が親に読み書きなどを教えるようになり、国全体の教育水準が向上、という効果が生まれ、『地方の教育不足』という課題Bが解決します。
教育水準が向上すると、高付加価値な作物や品種、加工品などの生産を可能にし、農業・漁業の生産を活発化、『農業・漁業の生産性が低い』という課題Cが解決されることになります。地方の産業が発展すると、地方での雇用が生まれ、地方と都市部の経済格差が是正しますから、『地方と都市部の格差の拡大』という課題Dまで解決します。

つまり、ここで解決に挑むべき〝大きな社会課題〟は課題Dであり、そのための〝レバレッジポイント〟が課題Aです。企業が提供できるソリューションと、社会課題(課題D)と特定のレバレッジポイント(課題A~C)とが調和する領域に社会課題起点の新規事業機会は存在します。企業ソリューションとレバレッジポイントのマッチングを探すことが〝提供価値の探索〟になるのです」。

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