ArayZオリジナル特集

社会課題からビジネス機会を創出する CSV事業戦略

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事業機会に転換した日本企業のモデルケース

ケース1 損保ジャパン日本興亜:『タイの天候インデックス保険』

天候リスクはタイの農家にとって深刻な課題だ。特にタイ東北部は地形上の制約から大規模な水源開発が困難で、水資源が乏しい。灌漑設備の整備が遅れており、稲作農家は農業用水を雨水に頼る天水農法が主体で、降水量が収穫高に相当な影響を与えている。干ばつの際には、農家は単年の収入減を理由に農地を手放したり、農業資材の投資を怠る傾向があり、この資金難原因による投資控えが、タイの農業生産性の伸び悩みの原因とひとつと考えられている。

そこで損保ジャパン日本興亜は、〝天候インデックス保険〟により、タイの農家の天候リスクをヘッジして、安定的な農業投資の維持・農業生産性の向上に貢献している。2007年から国際協力銀行(JBIC)などと研究を進め、10年からタイ東北部において提供を開始。12年に干ばつが発生した際には加入者の約85%の農家に保険金を迅速に支払った実績が評価され、販売地域を拡大している。

この保険は、タイ気象庁が発表する累積降水量が一定値を下回った場合に一定の保険金を支払う商品であり、日本で1990年代後半から販売している企業向けの天候デリバティブのノウハウを活用している。また、商品開発は農家ヒアリング・現地調査を繰り返し、保険に馴染みがない農家でもわかりやすいシンプルな設計がされている。保険料は支払い可能な範囲で収益が出せる水準に設定。タイは農家の数が多く事業拡大余地も大きいので、収益化できて継続性が高いスキームになっている。

タイ農業協同組合銀行(BAAC)と提携することで、同行のローン利用者向けに販売するルートを確保。販売当初は1県のみであったが、20県超にまで拡大している。
「12年以降、2年連続で干ばつが発生した地域があり、改めて保険の必要性が認識されました。対象作物の多様化のほか、ミャンマー、フィリピン、インドネシアなど他国への横展開・調査を実施しているそうです。14年には、フィリピンのバナナ生産者を対象に天候インデックス保険の一種である『台風ガード保険』を販売開始。また同年12月には、ミャンマー中央乾燥地帯の米農家とゴマ農家を対象に、干ばつリスクに対応した天候インデックス保険を開発し、現在はインドネシアで天候インデックス保険を展開するため、調査中だと発表しています 」(望月氏)。

ケース2 三菱商事:『フィリピン水道事業』

1997年以前のマニラは公営水道がほとんど未整備の状況で、24時間給水率は26%と、蛇口があってもほとんどの地域で水の出ない時間帯が存在していた。その主因は盗水や漏水で、無収水率(浄水場で生産した上水のうち、水道料金収入に結び付かなかった部分の比率)が63%にのぼったことにある。また、水道料金の徴収スキームも整備されておらず、運営費の回収もままならない状況だった。

97年、マニラ首都圏の水道事業が民営化されると同時に、フィリピン大手財閥のアヤラグループと組んで、マニラウォーター社を設立したのが三菱商事だ。マニラの東地区の水道事業を担当し、社会課題とされていた盗水や漏水を防止すべく、ハード面の改善のほか、水道が引かれるユニット単位での共同責任(江戸時代の日本で行われた「5人組制度」に似た料金の回収スキーム)による水道料金の回収システムを導入した。これにより、無収水率が11%を下回る数値に改善され、24時間給水率も99%までに向上、ほとんどの人々が水道から安全な水を飲めるようになった。さらに社員教育による事業の効率化、水道料金回収の効率化を通じ、目標よりも早い99年に黒字化を実現、2005年にはフィリピン証券市場へ上場を果たした。

「無収水率の高さは、払えるのに払っていなかったモラルハザードが原因でした。改善後も残る約10%の多くは元々支払い能力を有しない人たちだと言われています」(望月氏)。

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