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タイの事業展開のポイント ~リサーチからパートナー選定、ガバナンスまで~

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PHASE 3 フィージビリティ スタディフェーズ

事業の意思決定をする上で、数値計画は最も重要な要素のひとつです。市場調査フェーズで収集、分析した情報を、初期投資の金額、収益・キャッシュフロー・投資回収計画に反映してシミュレーションします。本パートでは市場調査で得た情報を積み上げ、定量的な数値計画に落とし込む作業をフィージビリティスタディと定義し、そのポイントをお伝えします。

(1)売上高は保守的に計画する

日本国内事業の大小に関わらず、海外の新たな市場へ事業展開するということは、一から創業するベンチャー事業と似ています。むしろ海外事業の方が将来の不透明性が国内事業に比べて高いと言えます。特にゼロから積み上げることになる売上高についてはその蓋然性を保守的に見積もり、それでも事業として成り立つ計画となるのかを評価する必要があります。事業として成り立たない計画となるのであれば、ビジネスモデルや現地パートナーとの組み方に工夫を加えるべきであり、無理やり計画を成り立たせる操作をすべきではありません。新たに海外進出した事業がうまくいかない理由の多くは、想定どおりに売上高が獲得できないことです。

(2)計画の前提条件を把握する

計画には必ず前提条件が存在します。特にアジアは、正しい情報を入手することが難しく、一定の前提を置いた数字で、計画を作成することになります。
前提条件が大きく変化するような場合は、同時に計画数値が変化することになるため、前提条件が成り立つ状況を常にウォッチし、前提条件が変化した場合の対策を立てておくことが有効です。
代表的な例は為替変動です。作成した数値計画はどの程度為替変動に耐えられるのかを把握し、大幅な変動により、計画が成り立たなくなった場合の対策を立てておくことが、突然の為替変動の対応をスムーズにすることにつながります。
また、現地パートナーが重要な役割を担うビジネスモデルであれば、現地パートナーに起因する状況変化を見込んでおく必要があると考えられます。

PHASE 4 現地パートナー選定フェーズ

昨今の日本企業の海外進出は製造拠点の設立から、販路開拓を目的とした進出へとトレンドが移行してきています。
販路開拓を目的に進出する場合、企業認知・商品認知がゼロの海外市場で一から販売網を構築するということになります。加えて海外の取引先や消費者の嗜好や商慣習が日本とは異なっている場合が多いことから、外国企業がシェアを獲っていくのは多大な時間を要します。対象市場に販売網を持ち、その市場の消費者の嗜好を理解する現地企業とパートナーシップを結び、現地向けの商品開発を共同で行ったり販売機能を活用させてもらうなどの事例の増加が見られます。

(1)現地パートナーの探索

自社の経営資源だけでは不足する機能がある場合、適した現地パートナーの有無は事業の成功を大きく左右します。現地パートナーの探索は、その対象国・業界において現地パートナーとなりうる企業のリスト化(ロングリスティング)を行い、自社の目的に合致する企業に絞り込む(ショートリスティング)ことが一般的です。その上で絞り込んだ企業への打診を行っていきます。現地パートナーの探索において以下2点が重要です。

a 現地パートナーに求める機能の明確化
現地パートナーに求める機能をできる限り明確にすることが、自社の目的に適した候補先を特定するために役立ちます。販売機能を求めるのであれば、自社が必要とするチャネルとリーチできるエンドユーザーの属性などをイメージすることが必要です。
また、ショートリスティングの過程で同じ機能を保有する現地パートナー候補の競争環境を分析し、それぞれの業界内のポジショニングを把握することによって、自社がアプローチすべき候補先の優先順位付けが可能となります。

b 自社が現地パートナーに提供できる価値の明確化
現地パートナーとwin-winの関係が築けなければ事業の成功は生まれません。自社が現地パートナーの機能を利用するためには、自社から提供できる価値が現地パートナーにとって魅力的である必要があります。
ブランド力、独自の技術、まだ現地では流通していない新しいサービスなど様々ありますが、その自社が提供できる価値をどのように生かし、それによって現地パートナーの事業が成長する絵姿を具体的に描くことによって、候補先へのアプローチによる結果に差が出ます。
現地パートナー候補となる企業が競争力のある企業であればあるほど、日系に限らず、他国の企業からも協業のアプローチがあることが一般的です。その中で自社は選ぶ立場である一方で、選ばれる立場でもあることを認識した上で、アプローチの戦略を練ることが重要です。

(2)現地パートナーの評価

現地パートナー候補が自社のビジネスに適した相手であるかを評価することは非常に重要です。評価の基準としては大きく「事業の親和性」と「企業の信用性」に分けられます。「事業の親和性」に関しては(1)の現地パートナーの探索ステップで評価されるものですので、このパートでは「企業の信用性」焦点をあてます。

a 財務的な信用評価
日本国内の場合でも、新たな取引先と商売を始める際に信用情報を入手し、取引先の評価を行う企業が多いと思われますが、アジアの場合、日本国内以上にその重要性は高まります。アジア企業の財務情報を入手する際の難易度は国によって異なります。
一般に公開されている国(シンガポールなど)、信用調査機関等から入手可能な国(タイなど)、外部からは入手困難である国(インドネシア・ミャンマーなど)に大きく分かれます。また、アジアの場合、その企業が正確な財務情報を公開していないこともあるため、注意が必要です。

b 業界での評判
現地パートナーを評価するために、定量的な財務情報を入手するだけでは不十分な場合もあります。
そもそもアジアにおいては上述したとおり、その財務情報が正確ではない場合もあるため、その対象企業の定性的な情報を入手することもあわせて行う必要があります。特にJVパートナーなど資本関係を作り、深い関係構築を想定する場合はリスクを低減するためにも重要です。
例えば、技術供与を前提とするJV事業であれば、その企業固有の技術が盗まれる懸念であったり、販売を前提とするのであれば、債権回収の懸念等があります。
現地パートナーと組む目的や形態によって様々ではありますが、外部には公にならない、その対象会社が存在する業界内の人間が知りうる情報を入手し、その対象会社が当社の現地パートナーに適しているかを評価することが重要です。

POINT

海外への戦略構築は今や将来への事業計画を描く上で必須の課題であり、海外事業の意思決定には、日本国内事業以上に入念な情報収集と慎重な事業検討が必要と言えます。海外進出支援の一般的な検討フローは、ビジネスモデルの仮説設計→市場調査→フィージビリティスタディ→事業パートナー選定です。
海外事業にリスクは付き物ですが、事前調査と調査結果を踏まえた事業検討により軽減が可能です。

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