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最新 つながるタイとASEAN物流事情

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タイが抱える物流のボトルネックと展望

タイの道路は概ね整備が進み(国全体の舗装率は81%)、幹線道路に関しては全て舗装され、2車線以上が確保されている。しかし、 鉄道網については、タイ国鉄(SRT)が今後2022年までに3169kmに及ぶ複線化工事を行う計画はあるものの、現時点では、路線の全長約4000kmのうち複線区間は約90kmに留まり、車両の数も不足しているといったインフラ面に課題があることから貨物輸送の活用は進んでいない。

法制度・手続き面でも運輸業と倉庫業の兼業は禁止されており、別法人としてライセンスを取得する必要がある。また電子通関システムは導入されているが、紙での書類提出も必要で作業が重複する、十分な周知なしで通関規則の変更が実施され、その場合であっても不備が指摘されてペナルティが課される、といった問題も指摘が挙がっている。人材面でも失業率が低く、肉体労働が多い物流業は人材の確保が比較的難しいという課題も抱えている。

日タイ経済連携協定(EPA)の枠組みの下、定期的に開催されているタイのビジネス環境の向上について日本側が提案を行う「ビジネス環境小委員会」では、さまざまな商慣習、ビジネス環境について提案を行っており、物流環境においても規制緩和が求められているという。

在タイ日本国大使館の小林伸行一等書記官は、今後のタイの物流を見るうえで、①東部経済回廊(EEC)開発が与える影響、②小口宅配サービスの浸透、③越境交通の課題解決―の3点に着目するべきだと指摘する。EEC開発には、道路や鉄道といったインフラ整備も含まれる。特にバンコク~ラヨーン間の高速鉄道については、官民連携(PPP)での開発が予定されており、早ければ18年前半に事業者選定が行われるという。

また、鉄道複線化の整備も進められており、レムチャバン深海港の拡張計画とともにコンテナの鉄道輸送も期待されている。レムチャバン深海港で降ろされたコンテナには、バンコク近郊の「ラッカバンICD」と呼ばれる貨物ターミナルに輸送されているものがあり、その大部分は現在トラックで輸送されているが、鉄道による輸送量を増やすという計画もある。レムチャバン深海深海港内の道路や高速道路に連結する道路は混雑が指摘されており、鉄道輸送が実用化されればその緩和策となるかもしれない。

東部経済回廊(EEC)の地域開発

タイ湾東部地域は約30年前から開発が進められており、現在では石油化学産業や自動車産業が集積している。タイ政府はこのチェチュンサオ、チョンブリ、ラヨーン3県のエリアを「東部経済回廊(EEC:Eastern Economic Corridor)地域」と指定。今後5年間で、同地域に1兆5,000億バーツ(約4兆8,000億円)の投資を官民で行い、同地域のさらなる発展を図る計画だ。
ウッタマ・サバナヤナ工業相は2月に開催された「オポチュニティ・タイランド」セミナーで、現在EEC地域で開発が計画されている15プロジェクトのうち、2017年に開始する優先5プロジェクトを発表した。

①ウタパオ空港:投資額は2,000億バーツ。現在の滑走路の東側に新たな滑走路を整備する。さらに、旅客ターミナル、商業施設、自由貿易区域、メンテナンス・修理施設、航空産業向け研修施設を新設

②レムチャバン深海港開発(第3期):投資額は880億バーツ。官民連携(PPP)方式で開発し、世界でトップ10に入る港を目指す。コンテナ取扱量を現在の年間700万TEUから1,800万TEUに、自動車輸出能力を年間100万台から300万台に増強

③高速鉄道の敷設、既存鉄道の複線化:投資額は1,580億バーツ。PPP方式でドンムアン空港~スワンナプーム空港~ウタパオ空港間に高速鉄道を敷設する。これにより、ドンムアン空港とウタパオ空港を1時間以内、スワンナプーム空港とウタパオ空港を45分での移動が可能になる。また、レムチャバン港~マプタプット港間の既存の鉄道を複線化するほか、レムチャバン港~ラヨーン間、マプタプット港~タラート間までの新線を整備

④EEC内への特定産業の誘致:投資額は5,000億バーツ。最先端食料生産・加工技術、自動車・同部品、電子、ロボット、航空機・航空機メンテナンス関連、医療産業(メディカル・ハブ)などをEEC内で発展

⑤都市開発:投資額は4,000億バーツ。チェチュンサオ、チョンブリに国際教育機関などを集積させ、パタヤとサタヒップは観光都市として開発

【参考資料】
国土交通省HP「アジアハイウェイ」
国土交通省・国土交通政策研究所 国土交通政策研究第115号
「ASEANの物流に関する調査研究」2014年7月
日本貿易振興機構(JETRO)海外調査部アジア大洋州課「ASEAN・メコン地域の最新物流・通関事情」2013年6月
国土交通省・物流審議官部門国際物流課「我が国物流システムの規格化・国際標準化に向けて」平成28年3月 国土交通省・物流審議官部門「我が国物流システムの海外展開について」平成27年6月
日本貿易振興機構(JETRO)・アジア大洋州課「世界のビジネスニュース(通商弘報) 東部経済回廊地域に重点置いて開発-BOI発表の新投資政策(2)-」2017年3月14日
国土交通省「物流をめぐる状況について(参考資料⑤)~物流の現状及び物流政策の取組状況等~」
国土交通省 総合政策局
国土交通省・国際物流課「保冷宅配便サービスの国際標準化と今後の方向性」平成28年11月25日
第4回国土交通省生産性革命本部資料
国土交通省「総合物流施策大綱」(2017年度~2020年度)

【情報提供】
在タイ日本国大使館 小林伸行一等書記官

(※)物流システムにおいて二酸化炭素排出量を削減する取り組み。モーダルシフト、輸送拠点の集約、共同輸配送、車両などさまざまな分野で取り組みが行われる

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