ArayZオリジナル特集

行って 見て 知る タイ企業 ~財閥のメコンビジネス戦略とは~

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「現場に行って、現物を見て、現実を知る『3現主義』」に基づき、タイ経済において絶大な影響力を持つ財閥や大手ローカル企業、政府系機関を訪問する、日経ビジネススクールアジア×mediatorの特別視察プログラム「NBSビジネスミッション」(※)。経営幹部、事業責任者との懇談や工場見学を通じて見えたタイの現状と各社の取り組みについて、今号と次号(11月号)の2回にわたってまとめる。
前編となる今回は、各社のメコンビジネス戦略について。
次回後編では、食品ビジネスとマーケティングに焦点を当てる。
ナビゲーターは日本経済新聞・編集委員兼論説委員の太田泰彦氏、ミッションコーディネーターはmediator社CEOのガンタトーン・ワンナワス氏が務めた。

※本特集は、7月・9月・10月に開催されたNBSビジネスミッションへの同行取材をもとに制作、編集したものです。11月のNBSビジネスミッション開催内容詳細については、本誌P23をご参照ください。

「メコン経済圏への扉」 太田泰彦 (日本経済新聞)


日本経済新聞の太田編集委員兼論説委員

プログラム冒頭、日本経済新聞の太田泰彦編集委員兼論説委員が「メコン経済圏への扉」と題してオーバービューを行なった。メコン経済圏とはメコン川に接している、タイとCLMV(カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム)と中国の一部の地域を、ひとつの塊として捉えた概念だ。

太田氏が、メコン経済圏を見る上でのキーワードとして取り上げたのは、「浸み出す」、「根を伸ばすタイ企業」、「タイ人って誰?」「グラデーション」、「マイペンライ精神」の5つ。今、この地域は橋や道路で繋がり、人、物がメコン川を越えて浸み出していると言い表した。

タイは地政学的にはメコン経済圏中心に位置している。そのため、タイを囲むCLMVの人々は仕事を求めて次々と自国からタイに浸み出して来る。逆にタイ企業は積極的に周辺国に〝根を伸ばす〟ように進出している。タイ国外にビジネスを展開させることで事業を拡大し成功へと導いている。
タイの財閥、大企業の多くが華僑によって興されている。華人以外にもタイには数多くの民族が存在、周辺国からも少数民族が移住し小さなコミュニティを形成している。そういった状況下で浮かぶのは、「タイ人って誰?」という疑問だ。

太田氏が取材した少数民族モンの教師は、自らのアイデンティティをタイ人ではなくモン族だと主張した。同教師が所属する学校ではタイ語のほか、ミャンマー語、モン語などさまざまな言語を教えており、多国籍企業で活躍する人材も輩出しているという。異文化が交わるタイで育った子ども達がグローバル人材として成長し、ASEANで花開く日も近いかもしれない。

タイ社会の隅々まで浸透している「マイペンライ精神」、そして源流にある仏教の寛大さや包容力がタイを色々な人々が混ざり合う舞台として機能させている。太田氏は、さまざまな人で溢れるタイは「グラデーション」とも表現できると話す。国境や民族の壁を軽々と飛び越えて周辺国にビジネスを展開するタイ企業のたくましさ、その生命力の源泉とは何か。ミッションを通して、今まで多くの日系企業がたどり着けなかったタイ・メコン経済の広大な風景が見えてくるはずだとまとめた。

CPグループ|CP Group


Netithorn Praditsarn氏 Vice President,
Group Sustainability and Communications, Office of Chairman

最先端の設備導入で食の安全を実現

CPグループは1921年、植物の種売買から事業を始め、現在では30万人の組織をまとめるアジア最大級のコングロマリット企業に成長しました。傘下には国内1万店舗を誇るセブンイレブン、業務用スーパーのマクロ、各種飲食店などを持つほか、近年では通信事業のtrueで中国IT大手アリババと提携し、Eコマースにも注力し始めています。

企業理念である「持続可能な発展」という大きなテーマに基づき「生産体制」、「新興国への横展開」、「新規事業の創出」、「人材育成」の4つの観点から事業を推進しています。中でも「生産体制」に関しては、川上から川下までの一貫生産、自動化、そしてそれを実現させるための技術力の3点をポイントに、グループ内で食品の生産・畜産から加工、流通、小売までを構築しています。自動化された生産体制は品質管理の面において、消費者の安心・安全にも繋がっています。

新興国で事業を横展開先進国は市場参入が目的

メコン経済圏を中心に、タイで成功した事業は周辺国にも横展開しています。この点に関しては、現場のニーズを把握することが重要だと考えていて、商品の味や物流システムをそれぞれの国に合わせること。また積極的に現地の人間を登用した生産販売の構築を行っています。また最新鋭の設備を導入した工場は環境負担が少なく、養鶏場から出る糞なども有効活用しています。
先進国への進出は市場参入が目的であり、ロシアとポーランドに生産拠点を配置することでヨーロッパ市場に参入したほか、アメリカの食品会社Bellisio Foods社を買収し、アメリカ市場へ参入を果たしました。中国市場では、伊藤忠との戦略的提携により事業拡大を図っています。

時代の流れに合わせた新規事業も拡大させており、現在では食品関連のほかにも通信、不動産開発、自動車などの産業でも事業展開しています。当グループでは「(大きな魚が小さな魚を食うではなく)速い魚が遅い魚を食う」と考え、成長スピードを高めるパートナーと組むことで、時代の変化に適応しています。
パートナーの選定条件は、相乗効果を得られる補完関係にあるか、コアビジネスに繋がるかにあり、グループ内やパートナー企業との人事交流や相互研修、幹部育成のための育成プログラムや大学の設置などを通じた「人材育成」にも力を入れています。

「持続可能な発展」という企業理念には、①商売をする国にメリットがあること、②そこにある社会・組織に貢献すること、③自社に利があること―この3者に利のあるビジネスを展開し続けることで持続可能な発展を追求することにあり、これがCPグループの源流になっています。


Viranon Futrakul氏 Assistant Vice President,
Group Sustainability and Communications,
Office of Chairman


飼料からブロイラー飼育、加工、小売販売と事業を拡大してきたCPグループは「タイにある資源を最大活用する」という前提のもと、農家の生活向上支援に積極的です。タイでは昔から富裕層が低所得者の面倒を見るという習慣があり、それを企業のCSRとしても活用していると言えます。
MT(モダントレード)のセブンイレブン、TT(トラディショナルトレード)が仕入れ元として利用している業務用量販店のマクロの両方をグループ内に擁し、2つのトレードの良さを巧みに活かして運営しています。セブンイレブンでは、タイ全国で300人のマーケティング担当が日々調査を行っているそうです。

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