中野陽介コラム

アート旅行記 世界に隠れた美の力11 オーストラリア/アボリジニー

シドニーの街中を歩いていると、アボリジニーのドット絵をたくさん見かけます。小さな点が織り成す絵をじっと眺めていたら、その点の一つ一つが、イノチ、細胞、星のように見えてきました。イノチがぎっしり詰まったミクロ世界のように見えたかと思えば、星と惑星がぎっしり詰まったマクロ世界のようにも見え、二つの両極の世界が共在するこの世の姿を見ているような不思議な感覚に陥りました。

ドットをひたすら描き続ける作業は、研ぎ澄まされた精神力、高い集中力を要します。ドット絵、写経、石彫り、瞑想、絵画、書道、音楽など、精神を研ぎ澄まし集中力を要する手法はさまざまあり、それが人に与える効果もさまざまですが、それらの根底には、エネルギーが外にではなく内に向いているという共通点があるように思います。目まぐるしく情報が飛び交い、新しい事件が次々と起こり、人間関係も交錯する今の世の中だからこそ、エネルギーが外に向きがちですが、エネルギーを内に向け、自分を見つめ直したり、自問自答したり、揺れ動く心をひとつにしたりする機会も作らないと、私たちは心身のバランスを保つことができません。これは現代だけの特徴だと思っていましたが、アボリジニーたちの多数のドット絵や彫刻作品などを見ると、昔から人間は外の世界を遮断し、徹底的に一人になれるような空間を求めていたのかなと感じ、いつの世も人間が求めるものは同じなのだなと、少しホッとしました。

 自分の内なる宇宙にダイビングしてキラキラ輝いている星を見つける。自分の外にある光にすがるのではなく、内にある光にすがること。アボリジニーのドット絵は、そんなことを教えてくれているような気がします。あなたの中には、どんな星があるのでしょうか。

Artist Profile:バンコクの会社で出会って3年後に結婚した2人。夫でアーティストの中野陽介は本物の芸術を見つけるために、妻は次に住みたい国を見つけるために、1年間で23ヵ国を巡る“世界一周ハネムーン旅”を216年6月からスタート。
yosukenakano.com

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