【野村総合研究所】タイ、アセアンの自動車ビジネス新潮流を読む

アセアンでの電動化を巡る主導権争いと中国メーカーの戦略(後編)

MGブランドの成功要因

タイではMGブランドは確実にプレゼンスを増している。特に、小型SUVの﹁ZS﹂を発売してから、売上げが急激に伸びている。2018年7月の売上げは、1,200台を超え、小型SUVセグメントでは、トヨタCH-R、ホンダHR-Vに次いで第3位に浮上した。
同モデルの成功要因としては、戦略的な価格設定(60万~70万バーツ)、欧州デザインを意識したパッケージング(上級グレード感を出すサンルーフや、ツートーンカラー等)、コネクテッド技術にあると言えよう。

特に注目されるのは、スマートフォーンとの連動を重視したMGのコネクテッド技術である。MGモデルの上級グレードには、無料でコネクテッドのサービスを受けられ、スマートフォーンでのキーロック機能、タイヤ、バッテリー等の車の状態チェックの他、タイのメーカーで初のタイ語による音声認識機能を搭載している。

その一方で、1.5リッターのエンジンを搭載するパワートレーンはパワー不足と評価は高くない。一言でいえば、MGの車は、スマホ世代を意識したシティカーとして割り切っており、戦略的な価格設定と組み合わせたマーケティングでうまく市場に浸透を図っている。

予想される中国メーカーの電動化戦略

上海汽車-MGの戦略から透けてみえることは、中国メーカーはコネクテッド等、差別化できる技術はいち早く搭載し、しかも低価格で先手を打ってくることである。

この先に準備しているのは、低価格での電動化であると予想される。中国メーカーは、ハイブリッド技術をもたず、国策で電気自動車(EV)を強力に推し進めていることから、ハイブリッドを飛び越えて、EVをアセアンで普及させた方が有利であるからである。

他方で、日系メーカーは、内燃機関でアセアンで確固とした生産基盤と、サプライヤーを招致して地域で完結したサプライチェーンを築き上げており、既存の生産基盤とサプライチェーンを活用できるハイブリッドから段階的に電動化を進めたいのが本音だ。

中国メーカーは、積極投資をすることで地域でのプレゼンスを高めながら、電動化をいち早く進める意向のあるアセアン政府を巧みに取り込む可能性がある。上海汽車を初めとする中国メーカーの動向からは今後も目が離せない。

(ArayZ 3月号に続く)

執筆者:野村総合研究所タイ


マネージング・ダイレクター
岡崎啓一


シニアコンサルタント
山本 肇

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