【野村総合研究所】タイ、アセアンの自動車ビジネス新潮流を読む

アジアの新興EVメーカーの台頭の展望(後編)

地場メーカーの台頭を後押しする要因

 これらの地場メーカーに共通するのは、①他業種からの参入であること、②EV開発・生産に事業の力点を置いていること、③投資規模計画が巨大であること、④複数のモデルを短期間で開発・生産する予定であること、⑤欧州ないしアジア系メーカーと提携関係があることだ。

 その構図をまとめると、下図のように、新興地場メーカーのリトルリーグが形成されつつあり、これらの地場メーカーの参入を後押しているのは、各国政府が発表しているEV奨励策である。タイはEVの物品税を2%に引き下げ、最大で10年間の法人税の免税措置を与える。インドネシアは、地場EVメーカーや地場産のEVバッテリーにインセンティブを与える大統領が近く発表されると噂される。各国政府がEVを支援するのは、これまでの日系メーカー等の外資に席巻された自動車産業において、EV化によって、地場メーカーにも組立てメーカーや地域的なバッテリーメーカーとして成長する機会があるとみているからだ。

 また、これらの動きを背後から支援しているのが、⑤の欧州系メーカーや中国等のアジア系企業である。蚊帳の外にあるのが、アジアでこれまで圧倒的なシェアをもっている日系企業である。中国や欧州系メーカーが狙っているのは、バッテリー、モーター等のコアユニットの供給と、EVに関わる技術基準の普及である。現に、タイでMGブランドを生産・販売する上海汽車は、5月にタイ地場のEnergy Absoluteと充電ステーションの設置、展開での事業提携を発表した。


図:アセアンの新興地場メーカーの関係図

地場メーカーの成長の展望

 一種のEVバブルにより、今後EVニッチメーカー(リトルリーグ)がアセアンで雨後の竹の子のように台頭する可能性がある。しかし、ここから上位の地域レベルで展開するメーカー(地域メーカー)に発展する展望は不透明である。アセアン各国が自国産業育成に注力しており、他国からの完成車輸入は歓迎しないからである。結局はお互いに足を引っ張り合うことで、自動車産業に必要とされるスケールメリットを達成できない可能性がある。地域的な産業としてEVを育成するのであれば、アセアン各国が地域的なアライアンスを結び、ユニットの生産分業・補完を図っていくことが欠かせない。

 ただし、将来的にはこれらの地場メーカーは、アジアでのアライアンスを拡げたい中国メーカー等に吸収される可能性もある。その一方で、主要日系メーカーは、アセアンではハイブリッド技術の普及を図っており、EVに参入したい地場メーカーの提携の可能性は今のところ高くない。だからと言って、欧州、中国メーカーにユニットや基準の浸透を見過ごすわけにも行かず、判断の難しい立場に陥っていると言えよう。


(ArayZ 8月号に続く)

執筆者:野村総合研究所タイ

マネージング・ダイレクター
田口孝紀


シニアコンサルタント
山本 肇

gototop