【野村総合研究所】タイ、アセアンの自動車ビジネス新潮流を読む

タイのxEV関連投資動向(後編)

(ArayZ 9月号の続き)

本稿で は、主要メーカーのxEV戦略をみながら、今後のxEVの方向性の手がかりを探ることにしたい。下図は、xEVの主要パワートレーンタイプ、すなわちハイブリッド(HEV)、プラグインハイブリッド(PHEV)、電気自動車(BEV)を横軸、車のサイズ別カテゴリー(B、C、Dセグメント)を縦軸にして、日・欧州・中国の主要ブランドの戦略をプロットしてみた。

日系メーカーのxEV戦略

日系メーカーでは、トヨタが先導を切り、ハイブリッドの「下位セグメントへの拡大戦略」をとっている。今年9月3日にトヨタはタイで「カローラ・アルティス」を発売し、ガソリン車のほかに、3車種のHEVを投入した。カローラHEVの価格は93万9,000バーツと初めて100万バーツを切った。従来は「トヨタ・カムリ」やレクサスブランド等の高級車種にハイブリッドを投入していたが、ハイブリッドに対する税率が2018年から引き下げられたことを契機に、100万バーツ台の「C-HR」のHEVを皮切りに、HEVモデルの展開を加速させている。ホンダも同様に今後は「i-MMD」等の新型ハイブリッドシステムを各車種に投入するとみられる。マツダは、希薄燃焼リーンバーンとマイルドハイブリッドを組み合わせた新型エンジンのスカイアクティブXをモデルチェンジする「マツダ3」に搭載する計画だ。
他方で、日産・三菱グループは、PHEVやEVを中心に投入しており、トヨタ・グループ、ホンダ等の日系メーカーとは一線を画する。今年、日産「リーフ」を完成車輸入で発売を開始し、2021年までに三菱はPHEVの「アウトランダー」の現地生産を計画。また、日産はモーターが主要な動力源である「e-POWER」を搭載したモデルの現地投入により、より低い価格帯へのxEVの展開を目論む。

非日系メーカーのxEV戦略

欧州メーカーは、販売車種が主に高級車であることもあり、PHEVを中心に展開している。2018年以降、タイがxEVに対する優遇税率を適用してからは、PHEVの値段が大幅に下がり、今やベンツやBMWの販売車種の3割以上をPHEVが占める。タイでの車種を絞っているVolvoにいたっては、PHEVが9割を占める。
今後xEVで一石を投じそうなのは、BEVのアジア展開を目論む中国メーカーの動向である。今年6月に中国の上海汽車傘下のMGがタイで電気自動車EVの販売を開始した。既に現地生産している小型SUVの「ZG」のBEV版であり、119万バーツで売り出す。昨年末に販売を開始した日産「リーフ」の200万バーツや最近販売開始した韓国の「コナ」の180万バーツと比べると3割~4割安く、業界関係者を驚かせた。

将来的なxEVでの主導権争いに備えた戦略

以上をまとめると、2019年から20年代初頭までは、日系メーカーがHEV搭載モデルを増やすことで、xEV市場を牽引するとみられる。その一方で、インフラの整備やBEV購入に対する補助金がないことから、タイでのBEVの普及は時期尚早とみられる。しかしながら、20年代以降に、リチウムイオンバッテリー価格がより低下すれば、欧州、中国メーカーは、BEV及びPHEVでより攻勢を仕掛けるとみられる。これらの攻勢に対して、日系自動車メーカーとしては、①さらに低価格の量販セグメントへのマイルドハイブリッドを含むHEVの展開、②バッテリーを含むxEV関連のサプライチェーンの構築、③高レベルの業界基準の標準化(バッテリーのリサイクルやxEV性能評価方法等)を急ぐことで、将来的な競争に備えていくことが求められる。

執筆者:野村総合研究所タイ

マネージング・ダイレクター
田口孝紀


シニアコンサルタント
山本 肇

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