【野村総合研究所】タイ、アセアンの自動車ビジネス新潮流を読む

タイの自動車市場 今後の動向~第1部(前編)

タイの自動車市場は、2014年以降の国内新車販売の低迷から脱し、昨年は100万台を5年ぶりに超えた。しかし、今年の後半からの景気の減速の影響で、国内販売は一転して厳しい状況にある。タイ工業連盟(FTI)は、国内市場を当初の見込みの110万台から100万台に引き下げる一方で、輸出を100万台に維持し、生産は合計200万台で維持するとみる。本稿では、今後の自動車市場の動向を占う。

厳しい後半の市場見通し

今年8月に開催されたバンコク日本人商工会議所(JCC)の自動車部会では、「今年前半は、累計では3年連続で前年水準を、6月以降は2カ月連続で前年実績を下回った。下期に向けて減速を予想するものの、100万台は維持する見通し」という見解が出された。さらに、菅田道信(タイ国トヨタ自動車社長)自動車部会会長は、来年以降も今年を下回るペースで推移する可能性が高いと指摘。足元では、年間換算で95万台程度の水準にあり、昨年と比べて5%以上の減少で推移している。

自動車市場の減速の要因として、JCCから指摘されているように、景気の低迷と金融機関の審査の厳格化が挙げられている。政策金利を8月に1.5%にまで引き下げたにもかかわらず、家計債務が高止まりしていることから、金融機関は個人ローンの拡大に慎重になっている。また、農産物価格の低迷や天候の影響による農業部門への影響が追い討ちをかけている。

金融機関の貸し渋りや農業等の景気減速が直接の要因であるとしても、タイの自動車市場は構造的に大きな変化点にさしかかっていることが影響している、というのが筆者の視点である。構造的な変化として挙げられるのが、①中間層の可処分所得の伸び悩み、②移動手段の多様化、③ミレニアル世代の台頭に見られるような消費の多様化、である。

(ArayZ 12月号へ続く)

執筆者:野村総合研究所タイ

マネージング・ダイレクター
田口孝紀


シニアコンサルタント
山本 肇

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