【野村総合研究所】タイ、アセアンの自動車ビジネス新潮流を読む

第27回 タイでのEuro5、6導入と 自動車市場への影響 (1)

タイ、アセアンの自動車ビジネス新潮流を読む

 タイ政府は、最近のPM2.5問題への対応策の一環として、乗用車、トラックの排ガス対策を強化し、欧州の排ガス規制であるEuro5、6の前倒し導入を2019年末に最終決定した。Euro5は当初の23年から21年に、Euro6は22年に導入されることになる。

 自動車メーカーは規制対応によってコストアップにつながることから、早期導入には慎重な姿勢を示していたが、政府に押し切られた形だ。本稿では導入の背景とその影響について述べる。

Euro5、6前倒し導入の背景

 前倒し導入の背景としては、既に触れたように、バンコクなど大都市でのPM2.5問題を中心とする大気汚染の深刻化が挙げられる。19年のタイ工業省の資料によれば、タイはPM2.5の濃度の高さが世界で9番目にあり、その値は年々深刻化している。

 PMとはParticulate Matter(粒子状物質の意)のことで、主なものでPM2.5とPM10がある。PM2.5は粒子径が概ね2.5μm以下で、燃料や焼き畑など燃焼によって直接排出されるものと、硫黄酸化物(SOX)、窒素酸化物(NOx)などの大気汚染物質が、大気中の化学反応により粒子化したものがある。微細な汚染物質であるために、PM10より呼吸器系への影響が大きい。

 タイ政府によれば、空気汚染による呼吸器系疾患の患者は年に5万人に達している。プラユット政権も事態を深刻に見て、昨年2月にPM2.5の解決は国家的な課題と宣言した。しかしその後、選挙等により政策実施が遅れ、昨年10月になって正式にEuro5、6導入をはじめとしたPM2.5削減のためのアクションプランを閣議決定した。

 政策決定を受け、工業省の経済産業局(OIE)は「Euro5導入措置により、自動車から排出されるPM2.5は80%削減されるだろう」と効果をアピールした。Euro5の効果は下表で見るように原理的には正しいが、実際にはそこまで削減できる可能性は低い、という見方が業界内では強い。また、Euro6をEuro5の1年後に導入することで、メーカーは短期間での規制対応を迫られることに困惑している。

図:Euro5、6の基準値と変化率

執筆者:野村総合研究所タイ

田口孝紀
マネージング・ダイレクター
田口孝紀

山本 肇
シニアコンサルタント
山本 肇

野村総合研究所タイ


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