【連載第9回】千代田中央法律事務所 タイの労働法制 ~ストライキ事例~

chiyoda

前回(2015年11月号)は、労使間における交渉がどのようなプロセスの下、進行していくかについて概観した。今回は交渉がステールメートに陥った際の、労働者側のいわば最終手段であるストライキについて、それがどのような場合に許容され、あるいは違法とされるのかについて、具体的な事例を通じて見ていくこととしたい。

事例1 ストライキの態様

【1.事例概要】
Y社の従業員であるXらは、Y社との間で労使交渉に臨んでいたが、決裂した。これを受け、XらはY社の工場に泊まり込みで立てこもり、ストライキを開始した。Xらはその際、工場内で煮炊きを行ったが、Y社は、Xらが煮炊きを行っている場所が、プラスチック製品の在庫およびガソリン、シンナーなどの備品が置かれている場所の近く(以下、「本件地点」という)であるとして、Xらに対して工場内の別の場所に移動するよう要請した。
Xらが、このY社からの要請を無視して本件地点で立てこもりを続けたため、Y社は、労
働者保護に関する内務省告示第47条(現労働者保護法第119条)に基づいてXらを解雇した(以下、「本件解雇」という)。Xらは、本件解雇が労働者に認められた団体行動権を侵害する違法なものであるとして、本件解雇の無効の確認を求めた。

【2.判決】
結論:本件解雇は有効である
理由:労働関係法第99条1項は、ストライキ、またはその支援、勧誘、補助を組合員の利益のために行う場合、参加者は刑事、民事上の責任を免れる旨定めている。ここでストライキとは、労働者が団結して職務を放棄し、集結することによって、使用者から譲歩を引き出そうとする交渉手段である。これに照らして、Y社工場のうち、危険物が多数保管されていた本件地点において煮炊きを行ったというXらの行動は、ストライキの範疇から外れた違法なものである。
Xらは、「ストライキ・ロックアウトは、労務を提供する現場内にて行われるべきである」とする告示(以下、「本件告示」という)から、Y社工場内での自らのストライキが適法であると主張する。しかし、本件告示は、ストライキ・ロックアウトによって第三者に対して被害が及ぶことを防止することを目的とするものであることから、Xらの当該主張には理由がない。
以上により、Xらのストライキは労働関係法第99条1項の適用を受けず、故意にY社の
財産権を侵害する行為であると言える。そのため、本件解雇は適法である。

【3.解説】
まず、本件においては、Xらの本件地点での煮炊きによってY社に財産上の損害が生じたこと、Xらがストライキを実行すること自体は、手続を履践したものとして適法であることについては双方争いがない。本件の争点は、専ら、Xらが本件地点で煮炊きを伴う立てこもりを行ったことが、団結行動権の発露としてのストライキの一態様であると言えるか否かであった。
ストライキは、労働者側が集団で労働を放棄することによって、使用者に対して抗議の意思を示し、使用者から譲歩を引き出そうとする、いわば労働者側の最後の交渉カードである。
この趣旨から、使用者の財産である事業所や備品などを損壊することは、ストライキの範疇から外れるものであると言える。
これに対して、Xらの主張は要するに、本件告示から、本件地点でXらが立てこもりを行ったことは、ストライキを実施する上で止むを得ず、その結果、Y社の財産権を侵害しても、それは正当な団結行動権の行使に際して不可避の侵害である、というものであった。
このXらの主張に対して判旨は、本件告示の上記趣旨から、XらはY社工場の別の場所、あるいはY社の別の建物内でストライキを実施する余地があったものであり、Xらの行為は、ストライキを行うに当たって避けられない行為であったとは言えないとしたのである。

事例2 交渉時の違法とストライキの適法性

【1.事例概要】
Y社の労働組合員であったXらは、雇用条件の改善を求めてY社と団体交渉を行っていたが、これが決裂した。なお団体交渉開始に当たっては、XらがY社に対して要求書を提出したが、この際、Xらは76名の署名入り名簿(以下、「第一次名簿」という)を同時に提出。その翌日、Xらは、新たに第一次名簿に名前のなかった34名の署名入り名簿を作成し、Y社に提出した(以下、「第二次名簿」という)。
団体交渉は不調に終わり、これを受け手Xらは無期限のストライキを宣言し、その職務を
放棄した。Y社はXらの職務放棄を理由にXらを解雇し(以下、「本件解雇」という)、これに対して、Xらは本件解雇が無効であるとして、出訴した。

【2.判決】
結論:本件解雇は有効である
理由:労働関係法13条3項は、「労働者が要求書を提出する場合、労働者の総数の15%以上の氏名および署名を伴わなければならない」と定めている。第一次名簿において署名のあった76名は、Y社の労働者総数の15%に満たないものであった。確かに、第二次名簿によって34名の署名が追加されたことによって、署名を行った労働者数はY社労働者総数の15%を超えることとなったが、これによって要求書の提出が適法に行われたということはできない。
よって、本件におけるXらとY社との間の交渉は、適法な要求書の下で行われたものと言
うことはできず、当該交渉が決裂したからと言って、Xらがストライキをすることはできない。
畢竟Xらのストライキは正当な理由のない職務放棄と言わざるを得ない。

【3.解説】
労働関係法34条は、ロックアウト・ストライキが禁じられる場合について定めている。そして、同条1項1号は、相手方に同法13条による要求書が提出されていないことを、ロックアウト・ストライキの禁止事由として挙げている。そこで判旨は、本件でXらから、同法13条に基づく適法な要求書の提出があったと言えるかについて判断を行った。
同法13条3項には、前述のとおり15%要件が定められている。本件では、Xらが第二次名簿を提出したことによって、当該要件をクリアしたかが問題となった。これについて判旨は、15%以上の労働者の署名を伴った要求書が提出されなければならないと規定されていることを重視し、要求書提出の後に名簿のみ補充しても、要件を充足しないと判断した。やや杓子定規なきらいもあるが、ストライキという最終手段に係る要件であることから、厳格に判断したものと思われる。逆に言えば、ロックアウトの要件充足の是非についても、やはり同様に厳しく審査されることになると思われる。

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佐藤聖喜 代表弁護士

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平井遼介 弁護士

千代田中央法律事務所・バンコクオフィス
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