【連載第48回】但野和博のコンサルコラムサポート実録記

シーポム社編(4)
「翻意となった退職」

(前回までのあらすじ)
〜シーポム社の経理の要となっているメイさんの辞意に始まり、現場に入って業務切り分けをした上で、完全に後手にまわっていた連結決算業務を派遣という形でサポートを開始し、追加採用した2名を派遣で向かわせたのだが…〜

 

メイさんの在籍意思の翻意は派遣が功を奏し、喫緊の課題だった目の前の期日対応をクリアしてほっと一息着いたタイミングだった。

「メイさんは緊急対応を乗り越えたというのが大きいのでしょう。今回の派遣で結果的に1名増員となり自身の業務も落ち着き、会社に残ることにしたのでは」と山雲さん。≪※1≫

実は今回の背景はもう少し複雑だ。

当初メイさんと一緒に経理として入金対応などを担当していたスタッフが少し前までいたのだが、そのスタッフが辞めて以降人材が補充されなかったことが始まりでもあったようだ。そのうえ、シーポム社は上場会社ではないものの、上場基準並みのスケジュール感で本社への提出書類の期日管理をしている。タイ現地法人単体の財務諸表から連結パッケージに相当する入力も現地に望んでいるため、現場としては恒常的に一定のストレスがかかるような状況であった。≪※2≫

そんな中、メイさんの負担と不満が溜まっていき、連結パッケージ対応は既に数カ月後手にまわっていた。心配になった山雲さんが再三確認しても「大丈夫です。私で対応できます!」という頼もしい言葉が返ってきて、山雲さんには不安が、メイさんには意地が、それぞれ交錯し徒労する数カ月が過ぎていった。

今回の一連の騒動のきっかけともなった、メイさんのまさかの退職取り消し宣言で意表をつかれた形で事態が収まったのは良いものの、「かえって余剰人員になってしまったのでは」と思いきや、「私が今対応している予算管理やキャッシュフローの管理も今後任せられるような人を社内に持たせたいので、そういう意味では増えたリソースでそちらの対応をしてもらえれば問題ありません」という山雲さんの力強い言葉をいただけた。そういうことで、そのまま派遣も続けることとなった。

このときは山雲さんも私もまだ知らなかったのだ。タイで一般的ではないこの派遣というスタイルの本当の難しさを。 (続く)

※クライアント様の匿名性を保つために社名・人名等をはじめ、事実から離れすぎない程度の内容の変更等、脚色部分があります。

≪※1≫
ある程度取引規模の大きい会社の場合、経理業務を細分化しているのが通常だ。入金管理だけ、支払管理だけ、請求書発行だけ、といった単純でボリュームの多い業務がカテゴリーとして切り分けられやすい。そうなると経理といっても一分野しか長く携わらない可能性も出てくるわけで、ジョブローテーションをある程度取り入れないとさすがに飽きてしまう。これが比較的小さな組織だとそれほど多岐に渡るようなジョブローテーションがないだけに、向上心のある人員を繋ぎ止めることは容易でない。あまりにも特定の単純業務だけ長いと本人にとっても転職時もつぶしが利きづらいので、今度は自分の業務を既得権益化してブラックボックス化していくという負のサイクルに入っていくパターンも多いと感じる。
≪※2≫
日系企業であれば、通常毎月の月次決算という単位で本社もしくはタイ法人に対して財務諸表の提出期日がある。当社では通常月末締めの翌月末報告が一般的だが、ここ数年で前倒しや初めから早めの依頼が多い傾向にある。取引量や取扱内容、クライアント企業内部での各種書類の提出協力などにももちろんよるが、リクエストとして以前より早くなってきていることは確かだ。そんな中、完全にローカル会社で経理をやってきたタイ人スタッフにとっては、月次と言えば税務申告書だけ対応していれば良かったものが、早めに会計記帳もしていかないといけないというのは想定以上にプレッシャーを感じるようだ。かといって適度なプレッシャーもかけないとそもそも期日を守る意識が欠落しているところからスタートしているため、そのあたりのバランスがなかなか難しいところである。

 

Accounting Porter Co., Ltd.
代表者 : 但野和博
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E-mail : kazuhiro.tadano@aporter.co.th
http://aporter.co.th/


但野和博
2012年5月タイ・バンコクにて、Accounting Porter Co., Ltd.を設立。日系企業の進出サポート及び経理を中心としたバックオフィスサポートを提供するサービス業として、同社を運営中。
日本での上場事業会社2社通算6年のCFO経験を活かし、日本本社部門との直接の対応を含み、現場では管理部門の立て直しを含めた相談にも対応している。
本コラムでは、タイの経理現場で起きていることを中心に具体的なサポート実例を交えて執筆中。

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