アジアでの「CFO経営」

Vol.13 タイと日本のクロスボーダーM&Aの実務 ①

日本とアジアで20年、1300社の経営に寄り添ってきたエスネットワークスが解説する、在アジア日系企業の経営管理術。

日本市場が成熟している中、日系企業が海外への積極的投資を近年行っており、2018年では約300件クロスボーダーM&A(17年約150件)が成立しています。今後も日系企業による海外企業の買収は拡大傾向にあると予測されます。しかしながら、タイローカル企業へのM&A件数を見ると、16年には40件程のタイ企業を対象としたM&Aが行われていますが、そのうち日系企業がM&Aを成立させたのは数件に留まっているのが現状です。

弊社ではタイローカル企業のセルサイドアドバイザリー業務を行い、日系企業に売案件を提供してきた中で、なぜM&Aが成立しないのか、どのようにすれば成立するのかを分析しており、M&Aの実務的な目線からその分析結果を数回に渡り解説します。

タイローカル企業の会計帳票の信憑性

今回解説する内容は会計帳票の信憑性についてです。弊社がタイローカルとセルサイド(売手)FA(ファイナンシャル・アドバイザリー)業務を行った企業では、監査報告書、DBD(商務省)決算書、社内決算書の数値が一致しておらず、日系企業側からのDD(M&Aの対象会社に対する事前調査)に全く対応できない状況でした。

タイローカル企業では正確に日本同様に決算書が作成されている企業が非常に少ない印象で、買手に対して正確な情報の提供ができず、DDを行った場合に当初話していたPL(損益計算書)、BS(貸借対照表)とは違った数値になり、本社の取締役会等で案件が止まってしまうケースがあります。

日本企業側の問題と対応策

また、タイローカル企業のオーナーとしては何故ここまで細かくDDを行うのか、なぜ時間が掛かってしまうのか理解ができず、オーナーサイドにこの日系企業に売りたくないという印象を与えてしまい、結果的に成立しないことがありました。

日系企業ではM&Aのプロセスを進めるために、各フェーズで取締役会の承認が必要な事例が多くあり、バイサイドFAからこのようなDDレポートが取締役会に報告された場合、リスクが大きすぎて買収しないという意思決定に至ってしまいます。

このような場合には、まずセルサイドFAに対して、正確な決算書を作ってもらう、もしくはそれを算定するのに必要な資料をしっかり準備してもらいます。実態の数値は正確ではないが、正確な決算書を作った場合の収益力を分析することで、本社での取締役会で説明することが可能となります。

セルサイドFAがタイローカルの場合には、そもそもこの正確な決算書はどのように作るのか、正確な決算書とは何かが分からない可能性があり(日本基準であるため)、セルサイドFAには日系のコンサルティング会社を指名することをお勧めします。

セルサイドFAが日系企業であった場合、少なくとも本社での承認プロセス、どのような情報を提供すれば日系企業が意思決定できるかを理解していることから、M&Aを成立させる可能性が高まると考えられます。

奥村 宙己
Hiroki Okumura
立命館アジア太平洋大学卒業。2014年、(株)エスネットワークスに新卒として入社。スポット支援として事業計画作成、事業デューデリジェンス、財務デューデリジェンス、M&Aアドバイザリーを担当。常駐支援として管理体制構築支援、月次決算体制構築支援、再生企業の事業計画実行支援、クロスボーダーPMIを担当。タイ国において進出サポート及び会計・税務コンサルティングに従事。

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