ArayZオリジナル特集

8人の専門家が解説するタイの過去そして未来

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モビリティが牽引するスマートシティの実現

下村 健一
Roland Berger
Roland Berger
Project Manager
下村 健一
Kenichi Shimomura

一橋大学卒業後、米国系コンサルティングファーム等を経て、現在は欧州最大の戦略系コンサルティングファームであるローランド・ベルガーのASEANリージョンに在籍(バンコク在住)。ASEAN全域で、消費財、小売・流通、自動車、商社、PEファンド等を中心に、グローバル戦略、ポートフォリオ戦略、M&A、デジタライゼーション、企業再生等、幅広いテーマでの支援に従事。

デジタル Last 10 Years
世界的なスマートシティ拡大期 ASEANでの黎明期

スマートシティの浸透はこの10年で一気に進んだ。2010年時点ではまだ概念的な実証実験を繰り返す段階であったものの、調査会社IDCによると19年のスマートシティ投資は1,000億米ドルに達したという。世界中の投資が集まる注目事業に成長したと言える。

だが、誤解を恐れずに言うなら、この10年におけるスマートシティの主役は欧州だった。スイスのチューリッヒ、ノルウェーのオスロなどの欧州各都市は、スマート駐車場を運営するEasyParkが示すスマートシティインデックスでの上位評価の顔ぶれである。欧州出自のローランド・ベルガーでも、欧州でのスマートシティプロジェクトには多く携わってきた10年と言える。

10年代後半、アジアにおけるスマートシティとして中国、シンガポールなどが登場し出した。ASEANの他国においても、18年にASCN(アセアン・スマートシティ・ネットワーク)が採択され、バンコク含む26都市がパイロットケースとして制定されている。10年代末において、ASEANのスマートシティはいよいよ黎明期を迎えたと言えるだろう。

ASCNに対しては日本政府も協力を表明している。日系企業からもASEANのスマートシティプロジェクトへ投資したいという声は多く、その相談を我々もよく受ける。だが一方、中国は一帯一路政策の中で、橋梁や鉄道などの伝統的なインフラ投資だけではなく、スマートシティといったデジタルインフラへの投資にも積極的だ。

例えば、中国企業のHuaweiはデジタル経済振興庁(DEPA)によるデジタルロードマップ策定のスポンサーに入り、今後タイで更に増えるであろう個別のスマートシティプロジェクトを刈り取ろうとしている。それこそ10年前であれば、ここにスポンサーとして名を連ねたのは日系企業であったかもしれない。

デジタル Next 10 Years
ASEANならではの スマートシティ確立期

端的に言えば、欧米型や日本型、中国型でもない、ASEANならではのスマートシティが構築されていくだろう。そのキーワードは「モビリティ」だ。一般的なスマートシティのコンセプトの中にも、「スマートモビリティ」という考え方は存在する。だが、ここASEANではそれがより独自の形で進化していくと考える。

具体的に言えば、タイでも浸透しているGrabやインドネシアのGo-Jekなどのモビリティプロバイダーが主導するスマートシティが起こり得るだろう。不十分な公共交通機関や慢性的な交通渋滞はASEANの多くの都市における社会課題であり、その解決手段として配車サービスは人々に根付いている。

結果、人々のあらゆる移動データが彼らに集約されていくのだ。それをスマートシティインフラの交通情報と合わされば、信号機オペレーションやバス運行の最適化などを通じた交通問題の改善に活かされるだろう。この基点となるのは、データを握っているモビリティプロバイダーとなる可能性が高い。

実際、ジャカルタ郊外の複合都市BSDシティで、Grabが現地財閥シナルマスのスマートシティ事業に参画しているが、これは自らスマートシティプロジェクトを牽引していくためのトライアルだとも言われている。

このスマートモビリティを更に強固にするためにもう一つ重要なデータがある。それは自動車自体の移動データであり、基本的にはテレマティクスでしか取れないものだ。

日系自動車メーカーは既にテレマティクスの取り組みをASEANで始めており、アドバンテージがあるはずだ。モビリティプロバイダーは自ら車を作ったり、売ったりするわけでもないため、この領域はまだ得意分野とは言えない。食い込む余地は充分にあると考えられる。

ArayZへ一言

一読者としても毎号楽しく拝読させて頂いております。次の10年もASEANの成長とともに躍進していってください。

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