ArayZオリジナル特集

8人の専門家が解説するタイの過去そして未来

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膨れる社会の矛盾 リスク管理の見極めを

水上 祐二
タマサート大学
タマサート大学
政治学部客員研究員
水上 祐二
Yuji Mizukami

横浜国立大学大学院博士課程修了。専門はタイ政治経済論。在タイ日本国大使館で内政担当の専門調査員を経験後、国立チェンマイ大学人文学部歴史学科専任講師に着任。タイ人大学生相手にタイ語で歴史講義を担当。日本研究センター副所長も兼任。再度の大使館勤務を経て、2018年よりタマサート大学政治学部客員研究員として在籍しつつフリーランスのタイ政治アナリストとして活動中。

タイ政治 Last 10 Years
深刻化する経済格差 依然続く政治対立

元々タイ経済、中でも露店やバイクタクシーなどのインフォーマルセクターと呼ばれる部門が専門だった私が、日本大使館の政務部で専門調査員としてタイ内政の調査を開始したのが2009年でした。それから10年、経済格差や司法の歪み、汚職不正、階級構造といったタイが抱える政治、経済、社会の問題は全く解決しておりません。むしろ深刻になるばかりです。

09年、赤シャツによるパタヤでのASEAN首脳会議妨害からのバンコクでの騒動、10年にはセントラルワールドが炎上し、多くの死傷者の出る激しい衝突が起きました。11年には総選挙が実施されインラック政権が誕生しましたが、その直後には未曾有の大洪水が発生しました。混乱が加速した背景にも、政治対立が大きく関わっていました。

そして民主改革評議会(PDRC)によるバンコク封鎖などの大規模デモを経て、14年には再び軍事クーデター。一時的に表面上の政治対立は沈静化し、やっと19年に総選挙を実施して民政復帰となりましたが、20年は再び政治が大きく動こうとしています。

私は、二度の大使館勤務、大学教員として、この10年間誰よりもディープな情報を収集するべく、タイの政治家や運動家、学識者などと密接に付き合い、様々な政治集会などの現場に出向いてきました。

一般の方々とは全く異なる視点からタイの裏側を覗いて来たわけですが、その立場から言うと、引き続きかなり危うい状態が継続していると感じています。これまでも一歩間違えれば、もっと大きな衝突や内戦にまで発展していたかもしれません。この程度で済んでいるのは単に運が良かっただけです。

タイ政治 Next 10 Years
劇的に進む社会の変化 アンテナを張り巡らす必要

ラーマ10世の時代を迎えてから、様々ことが急速に変化しつつあります。例えば王室財産管理局の資産が国王の個人資産に変更となり、軍や警察の編成が大きく変更、政治体制そのものも裏側から劇的に変化してきています。

それに対する社会の反応も、国民からの尊敬を集めたラーマ9世の時代とは大きく異なってきました。タイを取り巻く国際関係も激しく変動しております。中国の存在感が一際大きくなり、日本の存在感が相対的に小さくなったことで、以前ほどタイから重要視されるパートナーではなくなってきております。それは今後もっと明確になっていくでしょう。日本人はタイ人からの厳しい目を理解して、身の程をわきまえながら仕事をしていかなければなりません。

駐在経験の短い方は、これまでプラユット軍事政権下で騒乱もなく、治安も比較的安定して、日本に様々な配慮をしてくれていた印象を持たれているかと思いますが、今後の政治も同じように進むとは限りません。これまでタイ社会が抱え込んできた矛盾がいよいよ爆発しようとしていますので、確実に大規模デモが発生しますし、再度のクーデターや政権交代により大きく政策や方針が変わってしまったり、体制そのものが大きく変わってしまったりするというリスクもあります。タイでの事業継続性が危ぶまれる事態が訪れるかもしれません。

読者の皆さんにも日頃から経済だけでなく、タイの様々な事象にアンテナを張り、一早く変化や危険を察知して、社会・政治のリスク管理を慎重に見極めて検討してもらいたいです。これまでも空港占拠やバンコク封鎖といった世界中が驚く、誰も想像もしなかった事件が起こってきた国です。

ArayZへ一言

100号記念おめでとうございます。これからも日本語での有益な情報発信頑張ってください。

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