ArayZオリジナル特集

8人の専門家が解説するタイの過去そして未来

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CASEの大きな影響 新たな事業戦略必要


野村総合研究所
野村総合研究所
Senior Manager
山本 肇
Hajime Yamamoto

国内のシンクタンクの研究員として従事した後、2004年からチュラロンコン大学サシン経営大学院(MBA)に留学。06年からCSM Automotive(後にIHSに改称)のバンコクオフィスのダイレクター。13年からの野村総合研究所タイランドに勤務。アセアンの自動車産業の調査(設計開発、サプライチェーン、市場戦略など)、産業政策策定支援を専門としており、野村俊郎・山本共著『トヨタの新興国適応~創発による進化~』等の著書あり。

自動車 Last 10 Years
日系サプライヤーの集積 タイの貴重なレガシーに

過去10年のタイの自動車産業を振り返ると、2011年に誕生したインラック政権による「ファーストカーバイヤープログラム」前後の急拡大期(10年~14年)と、その後の駆け込み需要反動による縮小期(15年以降)に分けられる。18年に一時的に回復したが、19年後半以降はかつての力強い生産の成長は見られず、200万台前後で横ばい状態が続いている。

最も印象的なのは13年、タイの自動車生産が過去最高の246万台に達し、世界自動車生産国の9位にランクインしたことである。これは「ファーストカーバイヤープログラム」を受けて国内需要が前年の70万台から140万台以上に倍増。更に豪州・アジア向けに好調だった輸出が加わり、生産は拡大した。この後、タイ政府は日系以外も誘致しながら、300万台の生産体制を目指した。

目標こそ到達できなかったが、タイは手厚い投資恩典で新規や拡張投資を呼び込み、ピックアップ、エコカーのような小型車、中型SUV、中高級車までの幅広いレンジの車両とその部品の拠点化が進んだ。

これをけん引したのが、市場シェア8割を握る日系メーカーである。次々に打ち出される投資インセンティブを最大限活用しながら、生産基盤を拡張し、グローバル生産ネットワークの一翼をも担っている。それを下から支えたのが、タイの全部品メーカー2,400社のうち700社を超える日系企業である。

特に注目されるのが、00年~05年の「投資の第三の波」の頃から進出してきたTier2以下の日系企業の層の厚さ。これらの進出を後押ししたのは、日本での市場縮小と若手人材等リソースの枯渇であり、製造のベースを日本からタイに移転している企業も多い。

このような絶妙なタイミングに多数の日系企業を誘致できたことは、タイの貴重な「レガシー(遺産)」となっている。

自動車 Next 10 Years
不均一に広がるタイのCASE 進む業種間・異業種間の提携

今後10年で最もインパクトを与えるのは、CASE(Connected、Autonomous、Shared、Electric)であることは、業界で共通認識となりつつある。しかし、タイでCASEは不均一かつ緩やかに進んでいる。SharedがGrabなどの配車サービスで急速に普及する一方、Electricは充電インフラの不足や割高な価格から進展していない。Autonomousは、道路状況や中国のAlibabaのようなプラットフォーマの不在で、本格的な実証実験に進んでいない。

タイでCASEは地域ベースで進展していくことが予想される。起点と成り得るのは、東部経済回廊(EEC)などでAmataなどデベロッパー主導で開発される「スマートシティ」。グリーンフィールドで電動化を奨励し、シェアリングなどの新しいサービスを積極的に取り入れる可能性がある。そのような場所が増えれば、気付かない内に全国に広がることもあり得る。

もし、日系企業が「レガシー」事業のみに依存するなら、このような動きに取り残されるリスクがある。イノベーションのジレンマから脱出するには、既存の系列や取引関係を超えて、新しいパートナーと組み、新しいビジネスモデルの構築が避けられない。

例えば自動車メーカーが、電動車のシェアリングないし公共輸送、その他モビリティとの最適な組み合わせを提供するMaaS(Mobility as Service)を実証・展開するには、現地デベロッパーや公共交通機関との協業が考えられる。中堅以下の部品メーカーは、スタートアップ企業との交流・提携などを通じて、新しいビジネスチャンスを得られる可能性がある。

今後、日系メーカーは「レガシー」分野で競争を勝ち抜くために再投資を継続し、CASEなどでは採算性が低い中で先行投資する両面戦略が必要となる。この戦略は投資負担が高いことから、将来、事業の見直し・整理、業種間・異業種間の提携が進むことが予想される。

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