ArayZオリジナル特集

8人の専門家が解説するタイの過去そして未来

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トレンド変遷に着目し 逆風下でも好機掴む準備を

高尾 博紀
GDM Thailand
GDM Thailand
代表取締役社長
高尾 博紀
Hiroki Takao

早稲田大学商学部卒業。2008年来タイ。ホテル・オフィス用地や工場倉庫用地及びホテルやオフィス、商業施設などの事業用不動産売買に強みを持つ。タイ国内において900,000㎡を超える不動産取引実績を有し、企業の不動産取得支援を行っている。

不動産 Last 10 Years
不安定ながらも緩やかな成長 日系企業進出ラッシュの終幕

2009年、10年の政治闘争と市街地銃撃戦、11年大洪水、14年クーデター、15年エラワン廟爆破、16年ラマ9世崩御など、この10年間はタイの事業環境にとって逆風の連続であったにも関わらず、日系企業を含め外国直接投資は続き、タイ産業の底上げに寄与してきました。

工場や物流などの産業セクターでは15年のタイ投資委員会(BOI)新制度施行を境に、日系企業の出尽くし感とともに新規進出の波は終わりを迎えました。BOI旧ルールの恩典を得るために14年末に申請ラッシュが続いたことを懐かしく思います。

18年に勃発した米中貿易戦争を契機に、中国のサプライチェーンが東南アジアシフトの動きを見せ、中国、台湾系企業がタイ進出を加速させています。私は年商5兆円規模の台湾系企業のタイ進出に携わりましたが、大企業にも関わらず、意思決定スピードの早さとダイナミックさは日系企業にとって見習うべき点も多いと感じます。このサプライチェーンの地殻変動は後世に振り返って見た時に大きな転換点だったと認識されるのではないでしょうか。

住宅やホテル、オフィス開発などの商業セクターでは、三井不動産や三菱地所など日系大手デベロッパーが先陣を切ってアジア市場に参入をしたのがこの10年間の特徴です。特に住宅開発においては都心部で各デベロッパーが高層コンドミニアムを競うように開発を続けた結果、急激な土地の値上がりを招きました。17年にはタイ史上最高値の土地売買が記録されています。駅近の好立地物件が飛ぶように売れた時期で、トンロー駅前のシャングリラ系列ホテル予定地もまさに一瞬で売買され、とても印象に残っています。

18年のバーツ高と米中貿易戦争による中華系投資家の減少、19年の住宅ローン規制により住宅の売れ行きが減速しました。それを契機に住宅開発一辺倒からホテルやオフィスなど収益物件開発へとトレンドシフトが起こっています。

不動産 Next 10 Years
激化する競争とニーズの多様化 地殻変動を察知し適応せよ

市場環境がうねりを上げるかのように変遷してきた2010年代を終え、20年代になった今、各企業はその潮流に適応することを求められています。

産業セクターでは、ローカル企業の台頭による競争激化が進み、低付加価値業種は差別化が難しくなり価格競争に飲み込まれています。弊社には事業縮小や撤退による工場や土地の売却依頼件数が年を追うごとに増えており、競争環境の厳しさを物語っています。

一方で増産や製造品種増加をされる企業様から拡張用地選定依頼を頂くことも多く、企業間での格差が色濃くなっています。生き残っていらっしゃる企業様の特徴として、自社の強みの他分野への応用、積極的な営業による機会の創出、人材の確保・育成と権限移譲などがあると感じます。

商業セクターでは、コンドミニアムの過剰在庫状態となり、資金繰りのために大幅値引きで在庫一掃をするデベロッパーも出始めました。住宅の売れ行き鈍化を背景に、ホテルやオフィス開発へとシフトし始めていますが、駅近の好立地物件は主に高層コンドミニアムのために開発されてきたため、都心部でホテル、オフィス用地の確保が非常に困難な状況です。今後は駅近の古い物件の買収及びリファイニングと郊外に延伸するBTS新駅周辺開発に分散されるトレンドが来ると思います。

競争環境の激化によって事業が立ち行かなくなった企業のM&Aや資金繰りに窮した企業の不良債権が市場に放出されてくることも想定されるため、これらの動きにも注目しています。

20年開始早々に新型コロナ問題による内憂外患の悲壮的な事態に直面し、私たちの前に暗雲が立ち込めています。しかしどのような不況が来ても、時間は止まったり、巻き戻すこともなくただ前へ進むのみです。私たちも時代の変化を察知しながら時の流れと同じように前に進み続けることが生き残りの鍵だと思います。


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