ArayZオリジナル特集

タイ現地化4.0-コロナ禍とその後を生き残る、生産性高い組織の作り方

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【直接部門】A社の事例

利益2倍、加工コストは2割減 タイ人工場長候補も誕生

中国に負けないコスト競争力を持つために日本からの生産移管で設立されたタイの新工場。しかし、日本人駐在員と現地スタッフとの一体感は生まれず、想定したよりコスト競争力も出ませんでした。現状に危機感を抱いた日本人社長から依頼が来ました。

A社には複数の工場があります。我々が支援に入ったのは、その内の一つで、200人ほどのスタッフが働いていました。現地に赴いて工場を見学し、経営幹部とも面談。提案書を策定し、その後2ヵ月ほど掛けて改革マスタープラン作りに入りました。現状を分析するため、人や設備の稼働状況を確認。すると、ある設備の稼働率が低いことが分かりました。

製品や工程が変わる際に生じる段取り替え時間が長くなっていたのが原因でした。そのため、段取り替え作業を動画で撮影し、作業の手順と時間を測定しチャート化しました。そのチャートに基づいて、どうすればその作業を短くできるか改善案を一緒に作り、改善案をトライアンドエラーを繰り返しながら実践しました。

これは一つの例ですが、このように各工程ごとに生産性を高めるために何をすれば良いか、作業分析を通して改善案をまとめて改善後の実行管理体制も設定しました。改善案を検討する、あるいは改善の進捗を管理するミーティングにも弊社コンサルタントが参加し、マネジメントや各スタッフの管理技能向上をサポートしました。

2年間に及ぶ取り組みにおいて顕著な成果が出たテーマは歩留まり(良品率)の向上です。工程の途中で出るNG品を削減したことで余分な材料費の削減に繋がると共に、品質を作り込む力が付き、生産するアイテムを増加させることもでき、大幅な生産性向上に結び付いたのです。

本プロジェクトの結果として、加工コストは以前より2割減りました。さらに、利益は2倍になりました。これまでより難易度の高い製品の生産も実現。さらにタイ人マネージャーの育成が進み、タイ人工場長候補も誕生するまでになりました。

【間接部門】B社の事例

変わった朝礼の風景 チームで助け合い、目標達成率も向上

200人ほどのスタッフが働くB社の生産技術部門のオフィス。以前は隣の席の人が、今どんな仕事をしているか分からないなど、一人ひとりがバラバラの状態で働いていました。タイ人マネージャーも仕事を部下に振るだけで、その後のフォローをしません。結局、問題が発生して日本人駐在員が火消しに駆け回ることになり苦しんでいました。そういった現状を何とかしたい、とお声掛けいただきました。

JMACの組織開発コンサルティングの最大の特徴は、「日常業務をダイレクトに変える」ことへの挑戦です。特定の対象者だけではなく、「日常の職場単位(チーム)」で地に足の着いた変革をし、「組織全体」での知的生産性向上に取り組みます。

B社における取り組みの一つとして、毎日の朝礼の在り方を変えました。今どんな仕事に取り組んでいるかなどを日替わりで各スタッフが発表。仕事を進めていく中で判断に困っていることなどを周囲と相談する、報連相の場にしたのです。

通常の朝礼は遠慮や無関心、傍観者意識が蔓延し、上司から部下へ一方通行の伝達の場に終始する傾向があります。その朝礼は〝何を言っても大丈夫〟な場として指定しました。そうすると各人たちから、「もっとこうした方が良い」「この点は大丈夫なのか」など指摘やアドバイスが出るようになり、やがて問題の解決や目標達成へ向けた知恵の出し合い、助け合いが生まれてくるのです。

タイ人マネージャーに対しても、あなたの役割は部下が困っていることを見つけて、サポートしてあげることだと教育。マネージャーは徐々に自分の役割を理解し、今では日本人が参加しなくても、朝礼を切り盛りするようになりました。

簡単な報告だけなら5分で終わりますが、この朝礼は30分掛かることもあります。しかし、結果として後々の問題が減り、日本人駐在員も本来のマネジメント業務に時間を割けるようになりました。

波及効果として、やがて朝礼の場以外にもスタッフが人前で発言するようになり、上司が部下の理解度を確認するようになったり、部下が上司の顔色を伺うだけでなく自分の意見を言うようになりました。チームビルディングが部門内だけでなく部門横断で進み、生産性が向上。スタッフの定着率も高まり、最終的に目標達成率が上昇していきました。

形式的だった朝礼の時間が、活発な議論の場に様変わりした

形式的だった朝礼の時間が、活発な議論の場に様変わりした

【総論】コロナ禍を経て タイのオフィス、製造現場の今後

今後も「企業が海外拠点を活用することに変化はない」と説く勝田氏

今後も「企業が海外拠点を活用することに変化はない」と説く勝田氏

新型コロナウイルスの影響で今、日本で何が起こっているかというと、海外の拠点が輸出入に関してリスクが高まったので、食品に代表されるように継続性を確保するために内製化を進めていこうという流れがあります。

そうすると新型コロナウイルスの問題に限らず、安定供給といった観点でタイの拠点は本当に優位性があるのか、という点はこれから問われてくるのではないでしょうか。

タイ国内でタイ向けの自動車を作るという意味では、タイにある企業は存在価値が十分あります。しかし、特に輸出向けの製品を扱っている企業の場合、安定供給に耐えうるのかという観点で、生き残れない会社も出てくるのではないかという懸念を持っています。そういう意味で地産地消ではありませんが、他国に依存せずに自立できる事業をどう育成するのかという話は、コロナ禍を経てさらに重要になってきます。

現場という観点で見ると、おそらく働き方を変えていく必要があります。感染防止のためには3密(密封空間・密集場所・密接場面)を避けるとよく言われています。どうしても工場にはそういった密な状態になる現場があります。では、密を回避するために何をするかというとスペースを広げるか、人を減らすことが求められます。

今まで30人の密集した現場をソーシャルディスタンス(社会的距離)を取るために15人にする。生産能力を維持するためには、15人なら2倍の時間を掛けなければなりません。そうすると夜勤代、残業代などのコストが増大します。人の生産性を極力高めて、少ない人間で現場を回す必要があるのです。

省人化、自動化は以前から言われている課題ですが、これからは少ない人でも効率よく動ける現場を作らないといけません。そういう環境を一早く整備していくという意味で、新型コロナウイルスへのリスクは、取り組まなければならない課題に対して、対策のスピードを早めていると言えるでしょう。

オフィスに関しても、例えばリモートワークを継続した時の各人の役割や仕事の期待成果の明確化、暗黙の了解の顕在化、共有方法の確立が大事になってきます。物理的に一緒にいない人たちの組織集団としての成熟度が求められます。

拠点のビジョンを掲げる

JMACは1942年に設立され、現在50ヵ国以上に顧客を持つ

JMACは1942年に設立され、現在50ヵ国以上に顧客を持つ

冒頭で現地化4.0と謳いましたが、これから求められるのは現地主導で改革を進め利益を創出し続けられる拠点です。

日系企業のタイ拠点は、予算の編成など日本本社の意向を伺いながら運営せざるを得ないのが今の状態です。タイ独自の事業戦略で打って出ようというのは、なかなか難しいです。日本がそこまで期待していない側面もあります。本社からのサポートがいずれ必要なくなるように、タイの拠点が付加価値向上を続けて、永続性をもって経営できるようになる必要があります。

その中でタイの拠点は何を目指すべきか。例えば製造業で表すと、横軸はサプライチェーン、縦軸はマーケットです。もともとタイの拠点は製造に特化していました。調達や開発、あるいは物流、販売も自分たちでできるようにサプライチェーンを広げ、拠点を強化するというのは方向性としてあり得るでしょう。または、地の利を生かしてタイから他の国へ進出したり、支援をしたりと、他地域への展開も方向性としてあります。

いずれにせよ、タイの拠点が圧倒的に利益を出して、その利益を付加価値を高めるための拡大投資に向けられるようになる必要があります。

では圧倒的な製品競争力、利益を実現するために何が必要かを考えると、タイの拠点が製品競争力を有しているとはどのような状態なのか、それを実現するための戦略はどうあるべきかを、自分たちで考えていく必要があると思います。そしてそれをスタッフと共有し、全員で一緒になって動いていこうという中長期的な腰を据えた取り組みが大切になります。

コロナ禍で多少の変化は生じても、企業が海外拠点を活用することに変わりはありません。タイもしくは日本でJMACが皆様の事業改革のお手伝いさせていただければ幸いです。

寄稿者プロフィール
  • 角田 賢司 プロフィール写真
  • JMAC シニアコンサルタント
    角田 賢司(Kenji Tsunoda)
    1998年東京理科大学卒業、同年JMAC入社。IE(インダストリアル・エンジニアリング)を中心として自動車(部品)、化学プラント、樹脂成型、建材、食品等、多くの業種で収益向上の支援を実施。現場の生産性向上、品質向上をはじめ調達コストダウンや在庫削減などのテーマでマネジメントの支援を行う。近年は製造業のグローバル化に伴い、タイ、中国などの製造拠点支援として、生産性向上や品質向上の成果実現と併せ、マネジメントの仕組み作り、ローカル人材育成を実践している。
    E-mail:kenji_tsunoda@jmac.co.jp

 

  • 勝田 博明 プロフィール写真
  • JMAC(Thailand) 社長
    勝田 博明 (Hiroaki Katsuta)
    大手素材メーカーにて生産現場・設備設計エンジニアの職を経て、2001年、JMAC入社。組織開発として「知的生産性の向上と組織風土の活性化」の支援に一貫して携わる。対象を企業のR&D部門から、工場間接部門、コーポレートスタッフ部門へと拡大させ、その間、人事制度改革、目標管理制度の導入支援も手掛ける。03年より日系企業タイ拠点の現地化促進支援を開始し、08年よりJMAC (Thailand)へ出向。10年より現職。
    E-mail:hiroaki_katsuta@jmac.co.jp

  • JMAC ロゴマーク
  • 日本能率協会コンサルティング(タイランド)
    E-mail : jmac_info@jmac.co.th Tel : 02-168-3037, 3038
    90 CW Tower B, Unit B2704, 27th Floor, Ratchadapisek Road, Huaykwang, Bangkok, 10310 THAILAND

誰もが直面する現地化課題への総合的かつ実践的なアプローチをホームページでご紹介しております。
http://www.jmac.co.th

 

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